お子さまの検査結果に「1q43-q44欠失症候群」という診断名が記載され、聞き慣れない言葉に戸惑っていらっしゃるかもしれません。
結論からお伝えします。この病気は1番染色体の長腕「43」から末端の「44」にかけての領域が欠けることで起こる、世界的にも報告例が限られる希少な染色体疾患です。知的障害やてんかん、脳梁(左右の大脳をつなぐ神経線維の束)の形成異常などを伴うことが多い一方、欠失の大きさや含まれる遺伝子によって症状の重さは一人ひとり大きく異なります。
この記事では、原因となる染色体の変化から、症状の現れ方を左右する3つの遺伝子、遺伝形式、出生前診断・NIPTとの関係、確定診断までの流れ、治療とご家族への支援までを整理します。米国国立衛生研究所(NIH)が運営するGARD、医学論文などの公的機関・学術情報にもとづいてお伝えします。一つひとつ確認していきましょう。
💡 この記事でわかること
- 1q43-q44欠失症候群がどのような染色体の変化なのか
- AKT3・ZBTB18・HNRNPUという3つの遺伝子と症状の関係
- 知的障害・てんかん・脳梁異常を中心とした主な症状
- 遺伝形式(デノボと家族内伝達)と次のお子さまへの影響の考え方
- 出生前診断・NIPTでこの病気が対象になるかならないか
- 診断後の治療方針とご家族への支援の選択肢
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1. 1q43-q44欠失症候群とは(原因となる染色体の変化)
この病気は、1番染色体の長腕43から44にかけての領域が、生まれつき欠けている状態です。欠失は染色体の末端に及ぶ「終端欠失」であることが多く、大きさは症例により幅があり、100kb程度のごく小さなものから6Mbを超えるものまで報告されています。
米国国立衛生研究所(NIH)が運営する希少疾患情報センターGARD(Genetic and Rare Diseases Information Center)では、この病気を「顔貌の特徴、発達の遅れ(特に言葉の発達)、てんかん、筋緊張低下を伴う、比較的新しく報告された症候群」と説明しています。GARDには33の症状が記録されており、脳梁無形成・全般的発達遅延・小頭症・重度の知的障害などが含まれます。
この領域には、脳の発達に深く関わる複数の遺伝子が含まれています。中でもAKT3・ZBTB18(別名ZNF238)・HNRNPUという3つの遺伝子は、症状の現れ方を左右する中心的な候補として、米国の研究チームによる遺伝型・表現型の相関研究で詳しく分析されています。
欠失の範囲によって症状の重さが変わる
一般的に、欠失の範囲が広く、より多くの遺伝子を含むほど、症状の組み合わせは複雑になりやすいとされています。欠失が1q43まで及ぶ場合は、顔貌の特徴がより強く出て、成長障害や知的障害の程度が重くなる傾向があると報告されています。反対に、ごく小さな欠失にとどまる方では、症状が比較的軽く済んだという報告もあります。診断書に記載された欠失の範囲を担当医と確認することが、見通しを立てる第一歩になります。
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2. 原因遺伝子と症状の現れ方(AKT3・ZBTB18・HNRNPU)
AKT3・ZBTB18・HNRNPUという3つの遺伝子は、それぞれ異なる症状と強く結びついていることが遺伝型・表現型研究で示されています。関係を表で整理します。
| 遺伝子 | 働き | 関連が強い症状 |
|---|---|---|
| AKT3 | 脳の成長に関わる細胞内シグナル経路(mTOR経路)を担う酵素 | 小頭症の主な原因因子とされる |
| ZBTB18(ZNF238) | 神経細胞の分化に関わる転写因子 | 脳梁の菲薄化・欠損など脳梁異常との関連が強い |
| HNRNPU | mRNA前駆体の処理に関わる核内タンパク質 | てんかんとの相関が特に強いと報告されている |
この研究では、AKT3の欠失がある方の多くに小頭症が認められた一方、ZBTB18の欠失は脳梁の形成異常と強く結びつき、HNRNPUの欠失はてんかんの発症と特に強い統計的関連を示しました。知的障害の重さについては、複数の遺伝子が同時に失われるほど重症化しやすい「加算的な効果」があることも示唆されています。
ただし、これらの遺伝子だけで全ての症状を説明できるわけではありません。同じ領域には他にも多くの遺伝子が含まれており、欠失の位置や大きさによって症状の組み合わせは一人ひとり異なります。診断書にAKT3やHNRNPUといった遺伝子名の記載がある場合は、どの症状と関連しやすいかの目安として担当医に確認してみてください。
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3. 主な症状
知的障害・発達遅延・てんかん・脳の構造異常を中心に、特徴的な顔貌や身体の異常、行動面の特性を伴うことがあります。報告されている主な症状を整理します。
| 症状・特徴 | 内容 |
|---|---|
| 知的障害および発達遅延 | 軽度から重度まで幅があり、言語や運動能力の発達に遅れが生じることが多い |
| てんかん | 発作の頻度・重症度は患者により異なり、抗てんかん薬による管理が必要になることが多い |
| 脳梁(のうりょう)の異常 | 菲薄化から完全な欠損(脳梁無形成)まで幅があり、頭部MRIで確認される |
| 小頭症・成長の遅れ | 頭囲が標準より小さく、出生後の身長・体重の伸びが緩やかな傾向 |
| 特徴的な顔貌 | 丸顔、広い額、目の間隔が広い、鼻や耳の形状の異常など |
| 筋緊張低下(低緊張) | 体に力が入りにくく、哺乳や運動発達に影響することがある |
| 行動上の特性 | 自閉スペクトラム症に似た行動、注意欠如・多動症(ADHD)、不安や衝動性など |
手足の形状異常や骨格系の異常、泌尿生殖器系の異常を伴うこともあります。症状の組み合わせも重さも一人ひとり違うため、「この病気なら必ずこうなる」という決まった経過はありません。
4. 原因と遺伝形式(デノボと家族内伝達)
多くはデノボ(偶発的な新生突然変異)として起こり、親から遺伝するケースはまれです。
デノボ(偶発的な変化)のケース
精子や卵子が作られる過程、あるいは受精後まもない細胞分裂の際に、偶然この欠失が生じることがあります。妊娠中の食事や生活習慣が原因で起こるものではありません。ご自身を責める必要はありません。
家族内で伝わるケースと顕性遺伝
まれに、親のいずれかから欠失を受け継ぐ家族内伝達も報告されています。この場合、遺伝形式は一つの変化で症状が現れる常染色体顕性(優性ではなく顕性)に相当すると考えられています。デノボであれば、次のお子さまへの再発リスクは一般的に低いとされます。一方で、どちらかの親御さんが同じ欠失を軽度に、あるいは症状なく持っている場合は、次のお子さまにも一定の確率で伝わる可能性があります。
私自身、外来でこうした希少な染色体疾患のお子さまを持つご家族から、次子について相談を受けることがあります。ご両親の染色体マイクロアレイ検査の結果が分かるだけでも、次の妊娠に向けた見通しを立てやすくなると感じています。次のお子さまへの影響が気になる場合は、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングをご検討ください。
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5. 出生前診断・NIPTとの関係
1q43-q44領域の欠失は、標準的なNIPTの対象には含まれず、微小欠失まで対象を広げた拡大検査でも、名指しで検査対象に含む会社は限られるごくまれな領域です。
一般的な基本NIPTが調べるのは、21・18・13トリソミーという染色体の「数」の変化が中心です。22q11.2欠失症候群のような比較的頻度の高い微小欠失を対象に含む拡大プランもありますが、1q43-q44領域は報告例が限られるごく希少な領域のため、対象に含めるかどうかは検査会社やプランによって異なります。ご自身が検討しているプランの検査対象範囲は、事前に確認しておくと安心です。
実際にこの領域は、妊娠中期の超音波検査で脈絡叢嚢胞(脳室内にできる液体のたまり)や単一臍動脈といった所見をきっかけに、羊水検査による染色体マイクロアレイ検査で見つかった出生前診断の症例報告もあります。超音波所見だけで確定することはできず、あくまで精密検査につなげるきっかけの一つです。
私たちヒロクリニックNIPTにも、「微小欠失まで調べる検査で、聞いたことのない領域が候補に挙がったらどうすればよいか」というご相談が寄せられることがあります。まず知っていただきたいのは、NIPTはあくまで非確定的なスクリーニング検査だという点です。公益社団法人日本産科婦人科学会のNIPTに関する指針でも、NIPTの結果はスクリーニング検査の範囲にとどまるとされています。確定診断には、羊水検査などの侵襲的な検査が必要です。
NIPTで1q43-q44領域を含む微小欠失の陽性所見が出た場合、流れは次の通りです。まず遺伝カウンセリングで結果の意味を確認します。その上で、羊水検査による染色体マイクロアレイ検査(CMA)を受けるかどうかを判断します。あわてて結論を出さず、専門家と一緒に一つずつ整理してください。
6. 診断が確定するまでの流れ
確定診断には、染色体マイクロアレイ検査(CMA)という精密検査が中心的な役割を果たします。
染色体マイクロアレイ検査(CMA)
従来の顕微鏡による染色体検査(G分染法)では見つけられないような、数百kbから数Mb単位の微細な欠失を検出できる検査です。この検査により、欠失している範囲がどこからどこまでか、AKT3・ZBTB18・HNRNPUが含まれているかどうかまで詳細に分かります。羊水検査とマイクロアレイ検査の関係については羊水検査によるマイクロアレイ検査の解説記事で詳しく整理しています。
FISH法や両親の検査
特定の領域だけを光らせて確認するFISH法が、診断の裏付けに使われることもあります。あわせて、両親の血液を調べることで、デノボなのか家族内で伝わったものなのかを判別できます。
出生後の評価
診断後は、頭部MRIによる脳梁の評価、脳波検査によるてんかんの確認、発達検査、小児神経科での定期的なフォローを組み合わせて、お子さまの状態を総合的に把握していきます。
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7. 治療とサポート
失われた染色体の一部を元に戻す根本的な治療法はまだありませんが、症状ごとの対症療法と療育で、お子さまらしい成長を支えることができます。
- てんかんの管理:抗てんかん薬を用いて発作をコントロールします。発作の管理はお子さまの生活の質を左右する重要な柱の一つです。
- 発達支援(療育):言語療法(ST)、理学療法(PT)、作業療法(OT)を通じて、言葉・運動・生活動作の発達を後押しします。
- 行動面の支援:自閉スペクトラム症やADHDに似た行動が見られる場合は、行動療法や心理的なサポートを検討します。家庭や学校との連携が欠かせません。
- 身体的な合併症の管理:心臓や泌尿生殖器の異常、骨格系の問題がある場合には、それぞれの専門医による診察と治療が必要です。

症状の組み合わせも重さも一人ひとり違うため、担当する小児神経科医・療育スタッフと相談しながら、お子さまに合わせた支援計画を少しずつ組み立てていくことになります。地域の福祉サービスや小児慢性特定疾病の医療費助成制度を活用することで、経済的な負担を軽減できます。詳しくは小児慢性特定疾病情報センターで確認できます。
8. 予後と見通し
報告されている症例数が限られているため長期的な見通しを断定することは難しく、欠失の範囲とてんかんの管理状況が生活の質を左右する大きな要因とされています。
欠失が小さく、てんかんの管理が良好な方は、支援を受けながら着実に発達を積み重ねていくケースがあります。一方で、欠失が広く複数の遺伝子を含む場合は、知的障害やてんかんの管理が長期にわたって必要になることが多いです。この差は、欠失の範囲やAKT3・ZBTB18・HNRNPU以外に含まれる遺伝子の組み合わせによって生じると考えられています。
私がこれまでの診療の中で感じるのは、てんかんの管理が落ち着いた後は、療育をどれだけ早く始められるかによって、日々の生活のしやすさが変わってくるということです。世界的にも症例の蓄積が続いている段階のため、担当医と経過を確認しながら見通しを立てていくことになります。
9. ご家族への支援と、次のお子さまを考えるときに
希少疾患ゆえの孤独感は大きいものですが、遺伝カウンセリングや患者会、公的な相談窓口など、頼れる場所は複数あります。
近所で同じ病気のお子さまを見つけるのは難しいかもしれません。それでも、染色体起因の希少疾患をもつ家族どうしのつながりや、遺伝カウンセリングの専門的なサポートは活用できます。発達面の相談は発達障害情報・支援センターでも情報を得られます。医療的な管理は医師や療育スタッフに任せ、ご家族の役割は、目の前のお子さまの小さな成長を一緒に喜ぶことだと考えています。
医療費や発達支援サービスの利用に伴い、家計に負担がかかる場合は、公的支援を利用して経済的負担を軽減することが大切です。子どもの健康や将来に対する不安、日常の介護によるストレスが両親や家族にかかることもあるため、支援グループや専門カウンセリングの活用も役立ちます。他の欠失症候群についても気になる方は、あわせてご確認ください。
知的障害が検査可能な部分欠失・重複疾患全般について気になる方は部分欠失・重複疾患の解説記事、微小欠失全般が心配な方は染色体の微細な異常がもたらすリスクについての記事も参考になります。知的障害と発達障害の広がりについてはNIPTと知的障害の限界についての記事もあわせてご覧ください。
次のお子さまに向けてNIPTを検討する場合、微小欠失をどこまで対象に含むかでプランの内容が変わります。ご自身に合うプランが分からない場合は、プラン診断を試してみてください。お電話でのご相談も受け付けています。0120-169-629までお気軽にお問い合わせください。
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よくある質問
1q43-q44欠失症候群とはどのような病気ですか。
1番染色体の長腕43から44にかけての領域が生まれつき欠けることで起こる、報告例が限られる希少な染色体疾患です。知的障害、発達遅延、てんかん、脳梁の形成異常、特徴的な顔貌などを伴うことがありますが、欠失の大きさによって症状の重さは大きく異なります。
どのような症状がありますか。
知的障害・発達遅延・てんかん・脳梁の異常・小頭症・特徴的な顔貌・筋緊張低下などが中心です。自閉スペクトラム症やADHDに似た行動が見られることもあります。症状の組み合わせは一人ひとり異なります。
遺伝性の病気ですか。次の子にも影響しますか。
多くはデノボ(偶発的な新生突然変異)で生じ、次のお子さまへの再発リスクは一般的に低いとされます。まれに親から受け継がれる家族内伝達もあるため、正確に把握するには両親の染色体マイクロアレイ検査が有用です。
1q43-q44領域の欠失はNIPTでわかりますか。
標準的なNIPTの対象には通常含まれず、微小欠失まで対象を広げた拡大検査でも、名指しで対象に含む会社は限られます。NIPTは非確定的な検査のため、陽性所見が出た場合は羊水検査などの確定検査で判断します。
どのような検査で確定診断されますか。
染色体マイクロアレイ検査(CMA)が中心です。従来の顕微鏡検査では見逃されるような微細な欠失も発見でき、必要に応じてFISH法や両親の検査で確認します。
治療法はありますか。どのような支援がありますか。
染色体の欠失そのものを治す治療法はありませんが、抗てんかん薬による発作の管理、言語療法・理学療法・作業療法などの療育、行動面の支援を組み合わせることで、お子さまの成長を後押しできます。小児慢性特定疾病の医療費助成など公的支援も活用できます。
監修:岡博史(おか ひろし) / 医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director。慶應義塾大学医学部卒業。日本とアメリカの医師国家試験に合格し、医学博士。国内でも数少ないラボディレクター資格を保有しています。本記事は医療広告ガイドラインに配慮し、GARD・学術論文などの公的機関・学会情報を参照して作成しています。記載の頻度・症状は報告例が少なく文献により幅があり、診断・治療の最終判断は担当医にご相談ください。
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医/産婦人科(NIPT・出生前診断)
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医/産婦人科(NIPT・出生前診断)
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

