- 先天性心疾患はおよそ100人に1人に見られ、赤ちゃんの先天異常の中で最も頻度が高いこと
- 心疾患の多くは多因子で起こる一方、一部に染色体・遺伝要因が隠れていること
- 染色体が関わる代表例が22q11.2欠失症候群(ディジョージ症候群)であること
- この症候群で見られる心疾患のタイプと、心臓以外の全身のサイン
- 胎児心エコーとNIPTそれぞれの役割と限界、確定診断までの流れ
先天性心疾患は「100人に1人」〜8月10日 健康ハートの日に考えたいこと
先天性心疾患はおよそ100人に1人に見られ、赤ちゃんの先天異常の中で最も頻度が高いとされています。
8月10日は「健康ハートの日」です。810を「ハート」と読むこの日は、日本心臓財団などが心臓への関心を高める日として提唱してきました。大人の心臓病を思い浮かべる方が多いかもしれません。けれど、この日はおなかの赤ちゃんの心臓にも目を向けるきっかけになります。
生まれつき心臓の形や働きに違いがある状態を、先天性心疾患と呼びます。頻度はおよそ100人に1人、割合にして約1%とされています。数字だけを見ると小さく感じるかもしれません。ですが、けっしてまれな病気ではないのです。
私自身、外来で妊婦さんとお話ししていると「うちの子に限って」と感じている方が少なくないと実感します。だからこそ、正しい頻度を知っておくことには意味があります。過度に怖がるためではなく、いざというときに落ち着いて向き合うためです。
そして、先天性心疾患の一部には、染色体や遺伝子の変化が背景に隠れていることがあります。この記事では「心疾患から染色体を見る」という切り口で、その代表例をたどっていきます。
先天性心疾患はなぜ起こる?〜多くは多因子、一部に染色体・遺伝要因
先天性心疾患の多くは複数の要因が重なる「多因子」で起こりますが、一部には染色体や遺伝子の変化が背景にあります。
心臓は妊娠のごく初期、たった1本の管のような形から立体的な4つの部屋へと作り替えられます。この作り替えは、驚くほど精密に進みます。無数の遺伝子と環境の要因が、タイミングよく働く必要があるのです。
そのため、原因を1つに絞れないことがほとんどです。体質にあたる複数の遺伝的な傾向と、妊娠中のさまざまな要因が少しずつ重なって生じると考えられています。これを多因子と呼びます。多くの先天性心疾患は、この多因子で説明されます。
一方で、心疾患が「全身の設計図」である染色体の変化のサインになっていることもあります。染色体の数や構造に違いがあると、心臓と一緒に他の臓器にも影響が及ぶことがあるからです。
心疾患と関わりが知られる染色体・遺伝性の状態には、次のようなものがあります。まずは全体像をつかんでください。
これらは染色体の「数」に関わる代表例です。これに対して、染色体の一部がごく小さく失われる「微細欠失」という変化もあります。その中でも心疾患と深く結びつくのが、次に紹介する22q11.2欠失症候群です。手や指の異常と心臓病が一緒に見られるHolt-Oram症候群のように、単一の遺伝子の変化が関わる病気も知られています。
染色体が関わる代表例:22q11.2欠失症候群(ディジョージ症候群)とは
染色体が関わる心疾患の代表が、22番染色体の一部が失われて起こる22q11.2欠失症候群(ディジョージ症候群)です。
22q11.2欠失症候群は、22番染色体の長腕にある11.2という領域が、ごく小さく欠けることで起こります。肉眼では見えないほど小さな欠失です。それでも、そこに含まれる遺伝子が失われると、心臓をはじめ複数の臓器の発生に影響します。
頻度はおよそ2,000〜4,000人に1人とされ、微細欠失症候群の中では最も多いと報告されています。染色体の一部が欠ける病気としては、決して珍しくない部類に入ります。
この症候群には多くの呼び名があります。ディジョージ症候群、口蓋心臓顔面症候群、CATCH22などは、いずれも同じ22q11.2欠失を指す別名です。かつては別の病気と考えられていたものが、実は同じ染色体変化だったとわかり、まとめて呼ばれるようになりました。
原因となる欠失の多くは、両親には見られない新しい変化(新生・de novo)として起こります。ただし約1割程度は親から受け継ぐ形で伝わり、その場合は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)の形をとります。日本では指定難病203、また小児慢性特定疾病の対象にもなっています。
本記事では全体像にとどめます。症状や検査、療育の詳細は、専門の解説ページにゆずります。より深く知りたい方は22q11.2欠失症候群の詳しい解説をご覧ください。よく似た症状で10番染色体が関わるタイプについてはディジョージ症候群2型(10p欠失)で説明しています。
22q11.2欠失症候群で見られる心疾患のタイプ
22q11.2欠失症候群では、心臓から出る大血管の付け根に関わる「円錐動脈幹奇形」が多く見られます。
この症候群では、およそ70〜80%に先天性心疾患が合併すると報告されています。多くの方に心臓の所見が見られるということです。中でも特徴的なのが、円錐動脈幹奇形と呼ばれるグループです。
円錐動脈幹とは、心臓から大動脈や肺動脈が出ていく付け根の部分を指します。ここの作り替えがうまくいかないと、大血管のつながり方に違いが生じます。22q11.2欠失症候群では、この部分に関わる心疾患が目立ちます。
代表的なタイプを一覧で整理します。名前は難しく見えますが、まずは「大血管の付け根の問題が多い」とだけつかんでください。
| 心疾患のタイプ | おおまかな特徴 |
|---|---|
| ファロー四徴症 | 4つの特徴が組み合わさる、代表的なチアノーゼ性の心疾患。円錐動脈幹奇形の一つ |
| 総動脈幹遺残 | 本来は分かれるはずの大動脈と肺動脈が、1本の血管にまとまって出る |
| 大動脈弓離断B型 | 心臓から全身へ向かう大動脈弓が途中で途切れている |
| 心室中隔欠損 | 左右の心室を隔てる壁に穴があいている。単独でも合併でも見られる |
心疾患の重さは一人ひとり大きく異なります。軽い心室中隔欠損のように経過を見るだけで済む場合もあれば、生まれてすぐの治療が必要な場合もあります。だからこそ、出生前や出生後の早い時期に心臓の状態を知っておくことが、その後の準備につながります。
私が心エコーの所見を家族に説明するとき、いつも心がけていることがあります。それは「タイプの名前」より「これからどう備えるか」を先にお伝えすることです。名前に圧倒されず、次の一歩に目を向けていただきたいからです。
心臓だけの病気ではない〜免疫・低カルシウム・口蓋・発達などのサイン
22q11.2欠失症候群は心臓だけの病気ではなく、免疫・低カルシウム・口蓋・発達など全身に影響が及びます。
この症候群を理解するうえで欠かせないのが、心臓以外のサインです。別名の「CATCH22」は、こうした特徴の頭文字を並べた覚え方として知られています。
CATCH22は、次の頭文字をつないだ言葉です。全体を一望できるように並べます。
- Cardiac:心奇形(先天性心疾患)
- Abnormal facies:特徴的な顔立ち
- Thymic hypoplasia:胸腺の低形成による免疫の問題
- Cleft palate:口蓋裂など上あご・のどの構造の問題
- Hypocalcemia:低カルシウム血症
末尾の「22」は、原因が22番染色体にあることを示しています。ただし現在では、この呼び方は特徴の一部にすぎないとも考えられています。実際の症状は人によって幅があるからです。
数字で見ると、それぞれの合併しやすさがつかめます。胸腺の低形成による免疫の問題はおよそ60〜70%、口蓋裂や鼻咽腔閉鎖不全はおよそ70%前後、低カルシウム血症はおよそ50%に見られると報告されています。加えて、発達やことばのゆっくりさが見られることもあります。
大切なのは、これらが必ず全部そろうわけではない点です。心疾患が目立たず、別のサインから見つかることもあります。だからこそ、心臓に所見があったときは、全身を見わたす視点が役立ちます。心臓は「入り口」の一つにすぎないのです。
出生前に気づくには?〜胎児心エコー(精密超音波)とNIPTの役割と限界
出生前に気づく手がかりは胎児心エコー(精密超音波)とNIPTですが、どちらにも役割と限界があります。
おなかの赤ちゃんの心臓を調べる中心的な方法が、胎児心エコー(精密超音波)です。心臓の形や大血管のつながり方を、動画のように見て確認します。円錐動脈幹奇形のような大血管の問題は、この検査で見つかることがあります。
心臓に所見が見つかったときは、その背景に染色体の変化がないかも気になります。ここで候補に挙がるのがNIPT(新型出生前診断)です。NIPTは、お母さんの血液に含まれる赤ちゃん由来のDNAのかけらを調べる検査です。採血だけででき、体への負担が少ないのが利点です。
NIPTでは、一部の施設で22q11.2欠失などの微小な欠失を調べる項目も提供されています。ただし、ここで正しく理解しておきたい点があります。NIPTはあくまで非確定的検査であり、それだけで診断が確定するものではありません。
微小欠失に関するNIPTの精度は、報告により幅があります。見つけ出す力にあたる感度はおよそ75〜95%とされ、報告によって差があります。一方、陰性を正しく陰性と判定する特異度は約99%と高いとされています。
注意したいのは、この症候群のように頻度が低い状態では、陽性という結果が出ても本当に病気である割合、すなわち陽性的中率(PPV)が低くなりやすいことです。「陽性=確定」ではありません。逆に陰性でも可能性がゼロになるわけではないのです。
NIPTとほかの方法の位置づけを、表で整理します。それぞれの役割と限界を見比べてください。
| 方法 | わかること | 位置づけ |
|---|---|---|
| 胎児心エコー(精密超音波) | 心臓の形・大血管のつながり方 | 形の異常を見る検査。染色体は直接はわからない |
| NIPT(微小欠失を含む) | 染色体の変化の可能性 | 非確定的検査。採血のみで負担は少ない |
| 羊水検査・絨毛検査+CMA | 染色体・微細欠失の確定 | 確定診断。染色体マイクロアレイ(CMA)で微細な欠失も評価 |
確定診断には、羊水検査や絨毛検査で採取した細胞を、染色体マイクロアレイ(CMA)という方法で調べる必要があります。NIPTで陽性となった場合は、この確定検査へ進むかを、遺伝カウンセリングを受けながら考えてください。検査を受けるかどうかは、あくまでご本人とご家族の任意の選択です。NIPTの微小欠失検査で何がわかり何がわからないのかは、NIPTの微小欠失検査でわかること・わからないことでも詳しく解説しています。
実際の声と、監修医師からのメッセージ
検査を待つ時間の不安に寄り添いながら、正確な情報を一緒に整理することを大切にしています。
妊娠中の検査には、数字では測れない気持ちがついてまわります。私たちの外来やSNS上でも、揺れる思いが数多く語られています。ここでは、一般化した形でいくつかの声を紹介します。
不妊治療を経てようやく授かったお子さんに心疾患が分かり、あらためて妊娠・出産のリスクを実感したという声も聞かれます。長い道のりを歩んできたからこそ、その驚きや戸惑いは深いものになりがちです。
また、NIPTの結果を待つ期間は不安で落ち着かなかった、陽性だったらどうしようと悩み続けた、という方も少なくありません。結果が出るまでの数日が、とても長く感じられるのは自然なことです。
監修医師として、私からお伝えしたいことがあります。心疾患や染色体の変化が分かったとしても、それは「終わり」ではなく「準備の始まり」です。診断がつくことで、生まれる前から適切な体制を整えられます。
もう一つ、外来で感じてきたことがあります。多くのご家族が、正しい情報にふれると少しずつ落ち着きを取り戻していく、ということです。だからこそ私たちは、断定を避け、幅のある事実を丁寧にお伝えするようにしています。不安をあおらず、けれど楽観だけでも終わらせない。その姿勢を大切にしています。
よくある質問
先天性心疾患と染色体に関する、よくある質問にお答えします。
ここでは、外来でよく寄せられる疑問をまとめました。ご自身の状況と重ねながら読んでみてください。
Q. 先天性心疾患はどのくらいの頻度で起こりますか?
A. およそ100人に1人、割合にして約1%に見られるとされています。赤ちゃんの先天異常の中では最も頻度が高いと報告されています。まれな病気ではありませんので、正しく知って備えることが役立ちます。
Q. 心疾患があると、必ず染色体の異常があるのですか?
A. いいえ、必ずではありません。先天性心疾患の多くは複数の要因が重なる多因子で起こります。ただし一部には染色体や遺伝子の変化が背景にあることがあり、その代表が22q11.2欠失症候群です。心臓の所見だけで染色体の状態は判断できません。
Q. 22q11.2欠失症候群はどのくらいの割合で心疾患を合併しますか?
A. およそ70〜80%に先天性心疾患が合併すると報告されています。中でもファロー四徴症や大動脈弓離断B型など、大血管の付け根に関わる円錐動脈幹奇形が多く見られます。心臓の重さは一人ひとり異なります。
Q. NIPTで22q11.2欠失症候群は確定できますか?
A. 確定はできません。NIPTは非確定的検査で、可能性を調べるものです。微小欠失に対する感度は報告により幅があり、およそ75〜95%とされています。特異度は約99%と高いものの、頻度が低いため陽性的中率は低くなりやすい点にも注意してください。確定診断には羊水検査や絨毛検査と、染色体マイクロアレイ(CMA)が必要です。
Q. 22q11.2欠失症候群は遺伝しますか?
A. 原因となる欠失の多くは、両親には見られない新しい変化(新生・de novo)として起こります。ただし約1割程度は親から受け継ぐ形で伝わり、その場合は常染色体顕性遺伝の形をとります。ご家族の状況が気になる場合は、遺伝カウンセリングでご相談ください。
Q. 胎児心エコーとNIPTはどちらを受ければよいですか?
A. 目的が異なるため、どちらか一方で完結するものではありません。胎児心エコーは心臓の「形」を見る検査、NIPTは染色体の「変化の可能性」を調べる検査です。心臓に所見があった場合に、背景の染色体を調べる目的でNIPTが選ばれることがあります。どの検査を受けるかは、担当医と相談しながら任意で決めてください。
Q. 22q11.2欠失症候群は公的な支援の対象になりますか?
A. はい、対象です。日本では指定難病203、また小児慢性特定疾病の対象となっています。診断がついた場合は、医療費助成や療育など、利用できる支援について医療機関や自治体の窓口にご確認ください。
監修:ヒロクリニック 岡博史 医師 / 水田俊 医師 / 新田啓三 医師
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

