妊婦健診で「妊娠糖尿病」と告げられ、「何を食べていいのか分からない」と戸惑っていらっしゃるかもしれません。
結論からお伝えします。妊娠糖尿病の治療の基本は薬ではなく食事療法であり、糖質を抜くのではなく「量」と「タイミング」を整えることが血糖コントロールの土台になります。75gOGTT(経口ブドウ糖負荷試験)による診断基準や、分割食・カーボカウントといった具体的な食べ方の工夫を知っておけば、赤ちゃんの発育に必要な栄養を確保しながら血糖値を安定させられます。
この記事では、妊娠糖尿病の診断基準から、食事療法の基本原則、1日の食事例、血糖コントロールが不十分な場合に母子へ及ぶ影響、そしてNIPTとの関係までを整理します。日本産科婦人科学会・日本糖尿病学会・厚生労働省・国立成育医療研究センターの公的情報にもとづいてお伝えします。
💡 この記事でわかること
1. 妊娠糖尿病とは|75gOGTTの診断基準と血糖が上がりやすくなる理由
妊娠糖尿病は、妊娠中に初めて発見される軽度の糖代謝異常で、75gOGTT(経口ブドウ糖負荷試験)の3つの数値のうち1つでも基準値以上になれば診断が確定します。公益社団法人日本産科婦人科学会が示す診断基準は、空腹時血糖値92mg/dL以上、負荷後1時間値180mg/dL以上、負荷後2時間値153mg/dL以上です。以前の基準では3項目中2項目以上の該当が必要でしたが、現行の国際基準(IADPSG基準)では1項目の該当でも妊娠糖尿病と判定されます。
妊婦健診ではまず血液検査で随時血糖値を確認し、数値が高い場合に75gOGTTへ進むのが一般的な流れです。実際に、9週台の血液検査で数値が高く75gOGTTを受け、12週台で診断が確定したという方もいます。私が外来でこの説明をするとき、多くの方が「もっと早い段階で分かるものだと思っていた」と驚かれますが、確定診断まで数週間かかることは珍しくありません。
なぜ妊娠中は血糖値が上がりやすいのか
妊娠中は胎盤から分泌されるホルモン(ヒト胎盤性ラクトーゲン、エストロゲン、プロゲステロンなど)の影響で、血糖を下げるインスリンの働きが弱まります。この状態を「インスリン抵抗性」と呼び、妊娠週数が進むほど強くなる傾向があります。もともと血糖を処理する力にゆとりが少ない方ほど、この時期に基準値を超えやすくなるのが妊娠糖尿病の特徴です。
妊娠糖尿病の背景にあるのは、あくまで胎盤ホルモンによる一時的な体の変化。妊娠糖尿病と、妊娠前からすでに糖尿病がある「糖尿病合併妊娠」は区別されます。糖尿病合併妊娠は妊娠初期から高血糖の影響を受けるため、胎児の形態形成にかかわるリスクが妊娠糖尿病よりも高くなる点が異なります。ご自身がどちらに該当するかは、妊娠前の健診結果と合わせて担当医が判断します。
2. 食事療法の基本|エネルギー量・栄養バランス・分割食とカーボカウント
妊娠糖尿病の食事療法は「食べる量を減らす」のではなく、必要なエネルギーと栄養を確保しながら血糖の急上昇を防ぐ食べ方に整えることが目的です。糖質を極端に制限すると、赤ちゃんの発育に必要なエネルギーが不足するおそれがあるため注意してください。
エネルギー摂取量の目安
1日の摂取エネルギーは、妊娠前の標準体重(kg)×30kcalを基準に、妊娠週数に応じた付加量を加えて算出します。目安は次のとおりです。
| 妊娠時期 | 付加エネルギー量の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 妊娠初期(〜13週) | +50kcal | つわりの状態も考慮して調整 |
| 妊娠中期(14〜27週) | +250kcal | インスリン抵抗性が徐々に強まる時期 |
| 妊娠後期(28週〜) | +450kcal | 体重増加ペースと血糖値を見ながら調整 |
これらはあくまで目安であり、体格や活動量、体重増加のペースによって担当医・管理栄養士が個別に調整します。自己判断でエネルギー量を大きく減らすことは避けてください。
分割食(分食)の考え方
分割食とは、1日3回の食事を5〜6回に分け、1回あたりの食後血糖の上がり幅を小さくする食べ方です。日本糖尿病学会の糖尿病診療ガイドラインでは、各食事を1日のエネルギーの25%前後、補食を5〜10%程度に配分する方法が紹介されています。
ポイントは、1日の総エネルギー量や栄養素の総量を変えるのではなく、同じ量を複数回に分けて「量」ではなく「タイミング」を調整することです。実際に、妊娠糖尿病の検査で引っかかってから分割食を含む食事療法を始め、血糖値と体重の両方が改善したという声もあります。@116mmさんは「食事療法を始めたら血糖値も体重もだいぶ減った。一番重かった妊娠6ヶ月から8ヶ月の今まで、今の食事に不満もなく続けられている」と投稿しており、無理なく続けられる工夫を見つけることの大切さがうかがえます。続けやすい方法を自分で見つけることこそ、分割食を長続きさせる一番の近道。
カーボカウントと三大栄養素のバランス
カーボカウントは、食事に含まれる糖質量を把握し、毎食のばらつきを抑える食事療法の一つです。基礎カーボカウントでは、主食の量をおおむね一定に保つことで血糖値の変動を予測しやすくします。三大栄養素のバランスは次の考え方が基本です。
- 炭水化物:総エネルギーの50〜60%を目安に、玄米や雑穀、全粒パンなど食物繊維の多い低GI食品を中心にします。
- たんぱく質:胎児の発育と母体の組織回復に必要なため、魚・鶏肉・卵・大豆製品から適量を確保します。
- 脂質:青魚やナッツ類の不飽和脂肪酸を中心にし、バターや加工肉に多い飽和脂肪酸は控えめにします。
ここで注意していただきたいのは、たんぱく質の摂りすぎです。血糖値を気にするあまり主食を極端に減らし、たんぱく質中心の食事に偏ってしまう方が一定数いらっしゃいます。実際に@mochibabymamaさんは「食事制限ガチ勢で、アスリートの食事になってますとタンパク質を減らすよう言われた」と振り返っており、栄養バランスは総エネルギー量だけでなく各栄養素の配分も見ながら整える必要があります。目指すべきは、たんぱく質偏重ではなく三大栄養素の均衡。
3. 1日の食事例と間食の選び方
分割食を実践する場合、3回の主食に2回の補食を組み合わせるパターンが取り入れやすい形です。下記は一例で、実際のエネルギー配分は担当医・管理栄養士の指導内容を優先してください。
| 時間帯 | 食事内容の例 | ポイント |
|---|---|---|
| 朝食 | 雑穀ご飯、焼き魚、味噌汁、温野菜 | 野菜から食べ始め、糖の吸収をゆるやかにする |
| 補食(10時頃) | 無糖ヨーグルト、素焼きナッツ | 低GIで腹持ちのよいものを選ぶ |
| 昼食 | 玄米、鶏むね肉のソテー、海藻サラダ | 丼物より定食形式で副菜を確保 |
| 補食(15時頃) | チーズ、ゆで卵、枝豆 | 甘い菓子パンや加糖飲料は避ける |
| 夕食 | 玄米、白身魚か豆腐料理、きのこの副菜 | 就寝前の空腹時間が長くなりすぎないよう調整 |
食べる順番も血糖コントロールに影響します。野菜(食物繊維)→たんぱく質→炭水化物の順に食べると、糖の吸収スピードが緩やかになります。加えて、1口につき20〜30回程度を目安によく噛むこと、毎日ほぼ同じ時間に食事をとることも、血糖値の変動を安定させる工夫として有効です。

間食を「お腹がすいたから食べるおやつ」ではなく「血糖コントロールの一環」と位置づけることも大切です。詳しい食品選びのポイントは妊娠糖尿病にひっかからないための食習慣についての記事でも解説しています。
4. 血糖コントロールが不十分な場合に母子へ及ぶ影響
血糖値が高い状態が続くと、赤ちゃんが大きく育ちすぎる「巨大児」や、出生後の低血糖につながることがあります。一般社団法人日本糖尿病・妊娠学会のQ&Aによれば、出生時体重4,000g以上の巨大児では、経腟分娩時に肩甲難産や鎖骨骨折などの分娩時損傷が起こりやすくなるとされています(日本糖尿病・妊娠学会Q4)。
母体側では、妊娠高血圧症候群や羊水量の異常、帝王切開率の上昇などが報告されています。赤ちゃん側では、巨大児のほかにも出生後の低血糖や呼吸障害が起こることがあり、これらは母体の血糖コントロールの状態と関連するとされています(日本糖尿病・妊娠学会Q5)。
妊娠糖尿病と診断された方の一部は、出産後も血糖値の再検査が必要になります。同学会の報告では、妊娠糖尿病になった方のうち5年で約20%、10年で約30%が糖尿病を発症するとされており、出産後の生活習慣の見直しが将来の糖尿病予防にもつながります。私が診療の中でお伝えしているのは、出産をゴールにせず、産後の健診も忘れずに受けていただきたいということです。
血糖管理と合わせて意識したい生活習慣
食事療法に加えて、日常生活の工夫も血糖コントロールを後押しします。食後の軽いウォーキング(10〜15分程度)は食後血糖の上昇を抑える効果が期待でき、睡眠不足はインスリンの働きを乱す要因になるため十分な休養も欠かせません。担当医から運動が制限されていない場合は、無理のない範囲で体を動かす習慣を試してみてください。
5. 外食時の工夫|量と順番でできる血糖対策
外食は炭水化物や脂質が多くなりがちですが、量と食べる順番を工夫すれば血糖コントロールと両立できます。妊娠中も外食や中食の機会をゼロにする必要はありません。
- 白米やパン、麺などの主食は半分〜3分の2程度に減らし、代わりに野菜やたんぱく質のおかずを追加する。
- 丼物は血糖値が急上昇しやすいため、副菜のある定食形式を選び、副菜から食べ始める。
- デザートは低糖質のものか、果物を少量、時間を空けて間食としてとる。
外食が続いた翌日は、家庭での食事で野菜量を増やすなど、1食単位ではなく1日〜数日単位でバランスを取り戻す発想が実践しやすいと感じています。体重の増え方が気になる方は妊娠中の体重管理についての記事も参考にしてください。
6. NIPTとの関係|妊娠糖尿病そのものはNIPTでは分かりません
NIPTは21・18・13トリソミーなど胎児の染色体の変化を調べる出生前検査であり、妊娠糖尿病のような母体の糖代謝異常を診断する検査ではありません。妊娠糖尿病の診断には75gOGTTなど別の血液検査が必要です。
一方で、高齢出産や妊娠前の体格(肥満度)は、染色体異常のリスクと妊娠糖尿病のリスクの双方にかかわる要因として、それぞれ別の理由から知られています。加齢に伴う染色体異常リスクの上昇についてはNIPTで、糖代謝の状態については75gOGTTで、それぞれ別の検査で確認する必要があります。高齢での出産を控えている方は高齢出産のリスクについての記事もあわせてご覧ください。
NIPTを検討する際は、調べられる項目と調べられない項目を正確に理解しておくことが欠かせません。妊娠糖尿病の心配とNIPTの受検を同時に考えている方は、NIPTで見つかる可能性のある病気についての記事で対象範囲を確認してください。
ご自身に合う検査プランが分からない場合は、プラン診断を試してみてください。妊娠糖尿病の食事管理についても、疑問があればお気軽にLINEでご相談ください。
妊娠糖尿病と診断された場合、食事管理は母体と赤ちゃんの健康を守る土台です。適切なエネルギー量の確保、分割食やカーボカウントによる血糖の安定、外食時の工夫を積み重ねることが、合併症のリスクを抑えることにつながります。産後も血糖の再検査を受け、生活習慣を見直す姿勢を続けてください。
よくある質問
妊娠糖尿病と診断されたら、糖質は完全に抜くべきですか。
抜く必要はありません。糖質を極端に制限すると赤ちゃんの発育に必要なエネルギーが不足するおそれがあります。総エネルギー量は確保したうえで、分割食やカーボカウントで「量」より「タイミング」と「配分」を整えるのが基本です。
分割食とは具体的にどのような食べ方ですか。
1日3回の食事を5〜6回に分け、各食を1日のエネルギーの25%前後、補食を5〜10%程度に配分する食べ方です。1日の総エネルギー量は変えず、1回あたりの食後血糖の上がり幅を小さくすることが目的です。
妊娠糖尿病は赤ちゃんにどのような影響がありますか。
血糖コントロールが不十分な状態が続くと、出生時体重4,000g以上の「巨大児」や、出生後の低血糖につながることがあります。巨大児では経腟分娩時に肩甲難産や鎖骨骨折などの分娩時損傷が起こりやすくなるとされています。
妊娠糖尿病はNIPTで分かりますか。
分かりません。NIPTは21・18・13トリソミーなど胎児の染色体の変化を調べる検査で、妊娠糖尿病のような母体の糖代謝異常は対象外です。妊娠糖尿病の診断には75gOGTTなど別の血液検査が必要です。
出産後も血糖の検査は必要ですか。
必要です。妊娠糖尿病になった方は、出産後も糖代謝異常が残っていないか再検査を受けることが推奨されます。学会の報告では、妊娠糖尿病になった方のうち5年で約20%、10年で約30%が糖尿病を発症するとされており、産後の生活習慣の見直しが将来の予防につながります。
外食のときはどのような点に注意すればよいですか。
主食の量を半分〜3分の2程度に減らし、野菜やたんぱく質のおかずを追加してください。丼物より副菜のある定食形式を選び、副菜から食べ始めると血糖値の上昇が緩やかになります。
監修:岡博史(おか ひろし) / 医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director。慶應義塾大学医学部卒業。日本とアメリカの医師国家試験に合格し、医学博士。国内でも数少ないラボディレクター資格を保有しています。本記事は医療広告ガイドラインに配慮し、日本産科婦人科学会・日本糖尿病学会・日本糖尿病・妊娠学会・厚生労働省・国立成育医療研究センターなどの公的機関・学会情報を参照して作成しています。エネルギー量や食事内容は個々の体格・体重増加ペースによって異なるため、実際の食事療法は必ず担当医・管理栄養士の指導に従ってください。
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医/産婦人科(NIPT・出生前診断)
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医/産婦人科(NIPT・出生前診断)
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

