この記事のまとめ
妊娠糖尿病は、妊娠中に初めて見つかる糖代謝の異常で、自覚症状がほとんどなく健診の血糖検査で発見されることが多い状態です。糖尿病そのものとは区別され、健診で早めに見つけて血糖を整えれば、母体と赤ちゃんへのリスクを減らしていけます。この記事では、症状の乏しさ・スクリーニングと75gOGTTの流れ・診断基準の数値・なりやすい人・母児への影響、そして食事や運動による予防と管理までをまとめました。数値は日本の学会基準にもとづいて解説します。
この記事でわかること
妊娠糖尿病とは?糖尿病とのちがい
妊娠糖尿病とは、妊娠中に初めて発見または発症した、糖尿病には至っていない糖代謝異常のことです。妊娠前からの糖尿病や、妊娠中に判明した明らかな糖尿病とは区別して扱われます。まずは、その成り立ちから見ていきます。
妊娠中は、赤ちゃんの成長を支えるために胎盤からさまざまなホルモンが分泌されます。これらのホルモンにはインスリンの働きを妨げる作用があり、血糖値が下がりにくくなります。この状態をインスリン抵抗性と呼び、妊娠後期に向かって強まっていきます。
多くの妊婦さんは、膵臓がインスリンを多めに出して血糖を正常に保ちます。その調整が追いつかなくなったときに、血糖値の高い状態になります。つまり妊娠という体の変化が引き金になる、一時的な糖代謝の乱れ。出産後は血糖が正常に戻る方が多いのも、妊娠糖尿病の特徴のひとつです。だからこそ、妊娠中だけの一過性の状態として正しく理解しておくことに意味があります。
私が妊婦さんの話を聞いていて感じるのは、「糖尿病」という言葉の響きだけで強い不安を抱く方が多いという点です。妊娠糖尿病は、生活習慣だけが原因の病気とは限りません。誰にでも起こりうる体の変化のひとつとして、落ち着いて向き合ってください。妊娠中の血糖と食事について公的な解説を確かめたい方は、日本糖尿病・妊娠学会の情報もあわせてご覧ください。
自覚症状が乏しいから見つけにくい
妊娠糖尿病は自覚症状がほとんどなく、多くは健診の血糖検査で初めて見つかります。「体調が悪くないから大丈夫」とは言い切れないところに、この状態のむずかしさがあります。
血糖値がかなり高くなると、のどの渇きや頻尿、疲れやすさといったサインが出ることもあります。ただし妊娠中は、頻尿もだるさも日常的に起こりやすいもの。糖代謝の乱れによるものかどうかを、自分で見分けるのは簡単ではありません。
だからこそ、決められた健診で血糖を確認する流れが助けになります。症状を待つのではなく、検査で早めに気づくという考え方です。健診の受け方や頻度に迷う方は、妊婦健診の頻度と検査内容もあわせて確認してみてください。
診断と検査の流れ(50gGCTと75gOGTTの基準)
妊娠糖尿病は、初期と中期のスクリーニングで血糖が高い可能性が出たら、75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)で確定します。段階を踏んで、必要な人だけ確定検査に進む流れです。ここでは検査の順番を整理します。
スクリーニングの流れ(50gGCT)
まず妊娠初期に、随時血糖の測定でふるい分けをします。次に妊娠中期の24〜28週ごろ、50g糖負荷試験(50gGCT)などでもう一度確認します。甘い糖液を飲んで1時間後に採血し、血糖が基準を超えたら確定検査へ進む流れです。
この50gの糖液が、思いのほか飲みにくいという声をよく耳にします。私も検査を受けた妊婦さんから「甘さがきつかった」と聞くことが少なくありません。Xでも@chifan_8さんが、50gの甘いサイダーを飲む検査が超辛かった、結果は2週間後の検診で分かるらしい、とつづっていました。飲みにくさに戸惑う方は多いもの。つらいと感じたら、無理をせず看護師に声をかけてください。
75gOGTTの診断基準
75gOGTTは、ブドウ糖を飲んで前後の血糖値を測る検査です。日本糖尿病・妊娠学会と日本産科婦人科学会の基準では、次の3つの数値のうち1点以上を満たすと妊娠糖尿病と診断されます。数値の根拠は日本糖尿病学会の情報でも確認できます。
| 測定のタイミング | 診断に該当する値(この値以上) |
|---|---|
| 空腹時血糖 | 92mg/dL |
| 糖負荷1時間値 | 180mg/dL |
| 糖負荷2時間値 | 153mg/dL |
1点で該当する点が、一般の糖尿病の基準とは異なります。妊娠中は赤ちゃんへの影響を避けるため、より早めに拾い上げる考え方だと理解してください。なおHbA1cなどの検査値もあわせて評価されますが、診断の中心はこの75gOGTTです。数値の意味は自己判断せず、主治医の説明を受けてください。
妊娠糖尿病になりやすい人
肥満・糖尿病の家族歴・高年妊娠・巨大児を産んだ経験・尿糖陽性などがある方は、妊娠糖尿病になりやすいとされています。ただし、当てはまらない方に起こらないわけではありません。心当たりがあれば、妊娠初期から血糖のチェックを意識してください。
次のような特徴がある場合、妊娠中に血糖が高くなるリスクが上がると考えられています。あくまで目安ですが、健診で医師に伝えておくと確認の重点を共有できます。
- 肥満:妊娠前からBMIが高めの方、妊娠中に体重が急に増えた方
- 糖尿病の家族歴:親やきょうだいに糖尿病の方がいる場合
- 高年妊娠:年齢が上がるほどリスクは高まる傾向
- 巨大児の分娩既往:以前に大きな赤ちゃんを出産した経験
- 尿糖陽性:健診の尿検査でくり返し尿糖が出る場合
これらが複数重なる方ほど注意がいります。とはいえ、リスク因子はあくまで目安。当てはまるからと不安を募らせるより、健診をきちんと受けて早めに把握することのほうが役に立ちます。間食の内容が気になる方は、妊娠中のおやつレシピも参考になります。
母体と赤ちゃんへの影響
血糖が高い状態が続くと、母体には妊娠高血圧症候群・羊水過多・早産、赤ちゃんには巨大児・肩甲難産・新生児低血糖などのリスクが高まります。血糖を整えることで、これらのリスクは減らしていけます。まずは母体、次に赤ちゃんへの影響を見ていきます。
母体への影響
母体では、妊娠高血圧症候群や羊水過多、早産などが起こりやすくなるとされています。血糖と血圧はつながりが深く、両方への目配りが要ります。妊娠高血圧症候群についてくわしく知りたい方は、妊娠高血圧腎症(妊娠高血圧症候群)の解説もご覧ください。出産後に血糖が戻る方が多い一方で、将来的に糖尿病を発症する可能性は一般より高まります。
赤ちゃんへの影響
母体の血糖が高いと、胎盤を通じて赤ちゃんにも過剰なブドウ糖が流れ込みます。赤ちゃんはインスリンを多く分泌する状態になり、体が大きく育ちすぎる巨大児につながることがあります。巨大児では、分娩時に肩がひっかかる肩甲難産が起こりやすくなります。
さらに、生まれた直後に糖の供給が急に止まることで、新生児低血糖が起こる場合もあります。子宮のなかで高血糖にさらされた環境は、成長後の肥満や糖代謝の乱れとの関連も指摘されています。だからこそ、妊娠中の血糖コントロールが赤ちゃんの健やかさにつながります。

診断を受けた直後は、不安な気持ちになるものです。私自身、妊婦さんから「赤ちゃんに影響が出てしまうのでは」という相談をよく受けます。ただ、多くのリスクは早めの管理で下げられます。過度に思いつめず、次に紹介する予防と管理から取り組んでみてください。
予防と診断後の管理(食事・運動・血糖測定)
妊娠糖尿病の予防と管理は、バランスのよい食事・適度な運動・血糖の自己測定という柱で組み立てます。自己判断で食事を極端に制限せず、主治医や管理栄養士に相談しながら進めてください。まずは全体像を図で確認します。
診断後の食事の工夫(分割食・食べる順番)
食事は、血糖の急な上昇をゆるやかにすることが目標です。空腹の時間が長くなりすぎないよう、必要に応じて1日の食事を数回に分ける分割食が使われます。食べる順番も助けになり、野菜やたんぱく質を先に、ごはんなどの炭水化物を後にすると、食後の上がり方がゆるやかになります。
食事管理は、思っている以上に気持ちの負担になります。我慢を積み重ねるより、続けられる形に整えるほうが結果につながると私は感じています。Xでも@pomipomi_puri_nさんが、分食を指示されてから食事が義務のようになり、大好きだった白米も食べる気が起きなくなった、という率直な気持ちをつづっていました。ひとりで抱え込まず、管理栄養士に献立を相談してください。具体的なメニューや食べる順番は妊娠糖尿病の食事でくわしく紹介しています。
運動と体重管理
適度な運動は、血糖を下げるだけでなくインスリンの効きをよくする助けになります。ウォーキングや軽いストレッチなど、体に負担の少ないものを、医師の許可を得たうえで行ってください。食後に10〜15分ほど歩くと、食後の血糖上昇をやわらげやすくなります。
体重の急な増加を防ぎ、健診で経過を確認しながら進めてください。無理のない範囲で構いません。妊娠中の栄養面が気になる方は、葉酸の役割もあわせてご覧ください。働きながら妊娠を続ける方は、厚生労働省 母性健康管理サイトで職場での配慮の受け方も確認できます。
血糖の自己測定とインスリン
診断後は、必要に応じて自宅で血糖を測る血糖自己測定が行われます。食前や食後の値を記録し、健診で医師に見せると管理の手がかりになります。食事と運動で目標の血糖に届かないときは、インスリン治療が選ばれることもあります。インスリンは赤ちゃんへの影響が少ないとされ、妊娠中でも使える治療です。飲み薬の血糖降下薬は、妊娠中は原則として使いません。治療の要否は主治医が判断します。
受診・主治医に相談する目安
妊娠糖尿病かどうかは自分では判断できないため、まずは決められた健診を受け、気になる症状があれば主治医に相談してください。不安をひとりで抱えないことが、最初の一歩になります。
のどの渇きや頻尿が急に強くなった、体重の増え方が気になる、健診で血糖や尿糖を指摘された。こうしたときは、次の健診を待たずに医療機関へ相談して構いません。食事の内容を大きく変える前にも、まず主治医や管理栄養士に確認してください。診断を受けたあとも、食事・運動・血糖測定を一貫して続けることが母児を守る近道になります。出産後も、将来の糖尿病を防ぐために体重管理とバランスのよい食事、年1回程度の血糖検査を続けてください。産後の生活が忙しくても、家族や医療機関のサポートを受けながら、無理のないペースで習慣にしていきましょう。
妊娠糖尿病そのものは、NIPT(新型出生前診断)で調べる対象ではありません。NIPTは13・18・21トリソミーなど対象の染色体を調べる非確定的検査で、確定診断には羊水検査などが必要です。血糖の管理とは別のテーマですが、妊娠期の不安を整理したいときは、専門の窓口に気軽に相談してみてください。
よくある質問
妊娠糖尿病について、妊婦さんからよく寄せられる疑問をまとめました。参考にしてください。
Q. 妊娠糖尿病は自覚症状でわかりますか?
自覚症状はほとんどなく、多くは健診の血糖検査で見つかります。のどの渇きや頻尿が出ることもありますが、妊娠中は起こりやすい変化のため見分けにくいです。決められた健診を受けて、血糖をチェックしてください。
Q. スクリーニングと75gOGTTはどう違いますか?
スクリーニングは、随時血糖や50g糖負荷(50gGCT)でふるい分けをする一次検査です。ここで基準を超えた場合に、確定検査である75gOGTTへ進みます。75gOGTTでは、空腹時92mg/dL以上、1時間値180mg/dL以上、2時間値153mg/dL以上のうち1点以上を満たすと診断されます。
Q. どんな人がなりやすいですか?
肥満、糖尿病の家族歴、高年妊娠、巨大児を産んだ経験、尿糖陽性などがある方はなりやすいとされています。ただし当てはまらない方にも起こりえます。心当たりがあれば妊娠初期から血糖を意識してください。
Q. 赤ちゃんへの影響はありますか?
血糖が高い状態が続くと、巨大児や肩甲難産、新生児低血糖などのリスクが高まります。ただし、血糖を早めに整えればこれらのリスクは減らせます。主治医の指導のもとで管理を続けてください。
Q. 予防のために自分で食事制限してよいですか?
自己判断で極端に食事を減らすことは避けてください。赤ちゃんの成長に必要な栄養が不足するおそれがあります。バランスのよい食事と適度な運動を基本に、献立や運動の内容は主治医や管理栄養士に相談してください。
Q. 出産すれば妊娠糖尿病は治りますか?
出産後は血糖が正常に戻る方が多いです。ただし、将来的に糖尿病を発症する可能性は一般より高まるため、産後も体重管理とバランスのよい食事を続けてください。年1回程度の血糖検査で経過を確認していきましょう。
著者・監修
岡 博史(おか ひろし)/医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director(ラボディレクター)。慶應義塾大学医学部卒業後、日本と米国の医師国家試験に合格し、医学博士を取得。日本に約20人しかいないラボディレクター資格を保有。YouTube「ひろし先生の正しいエビデンス妊娠ch」などで、エビデンスにもとづく妊娠・出生前診断の情報を発信しています。
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

