WAGRO症候群とは?原因・症状・治療法を解説

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WAGRO症候群は、WAGR症候群に肥満が加わった遺伝性疾患です。腎腫瘍や無虹彩症、発達遅延、肥満が特徴で、治療法や家族支援のポイントを詳しく解説します。

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WAGRO症候群」という聞き慣れない診断名を目にして、何を意味するのか分からず不安に感じていらっしゃるかもしれません。

結論からお伝えします。WAGRO症候群は、11番染色体短腕13(11p13)の遺伝子欠失で起こるWAGR症候群のうち、近くにあるBDNF遺伝子まで欠失が及び、小児期からの高度肥満を伴うタイプを指す呼び名です。WAGR症候群そのものが50万人から100万人に1人程度とされる非常にまれな疾患であり、その中でもBDNF遺伝子欠失を伴う例はさらに限られます。

この記事では、WAGRO症候群という名前の由来から、肥満を伴う仕組み、主な症状、原因となる遺伝子と遺伝形式、診断の流れ、出生前診断・NIPTとの関係、治療・管理までを整理します。GeneReviews、Orphanet、難病情報センター、小児慢性特定疾病情報センター、学術論文、日本産科婦人科学会・厚生労働省の公的情報にもとづいてお伝えします。報告数が限られる希少疾患だからこそ、一つずつ確認していきましょう。

💡 この記事でわかること

  • WAGRO症候群WAGR症候群とどう違うのか(BDNF遺伝子欠失との関係)
  • なぜ高度肥満を伴うのか(BDNF遺伝子と食欲調節の仕組み)
  • 主な症状(ウィルムス腫瘍・無虹彩症・泌尿生殖器異常・発達の遅れ・肥満)
  • 原因となる11p13欠失の範囲と遺伝形式
  • 出生前診断・NIPTでこの病気が疑われる場合の注意点
  • 治療・管理の考え方とご家族へのサポート

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1. WAGRO症候群とは(WAGR症候群とBDNF遺伝子欠失の関係)

WAGRO症候群は、WAGR症候群の4つの特徴に肥満(Obesity)が加わった状態を指す呼び名です。WAGR症候群という名称は、Wilms腫瘍(小児の腎臓がん)、Aniridia(無虹彩症)、Genitourinary anomalies(泌尿生殖器の異常)、知的障害(intellectual disability、かつてはmental Retardationと呼ばれていたもの)の頭文字から成り立っています。この4症状に、11p13領域のBDNF遺伝子まで欠失が広がることで生じる高度肥満(Obesity)を加えた表現型が、WAGRO症候群です。

WAGR症候群自体はほぼ等しい男女比で発症し、症状の範囲や重症度は患者ごとに大きく異なります。WAGRO症候群という呼び方は独立した別の病気ではなく、WAGR症候群の中でも欠失の範囲が広く、肥満という特徴が加わったケースを表す臨床的な分類だと理解してください。

2. なぜ肥満を伴うのか(BDNF遺伝子と食欲調節の仕組み)

WAGRO症候群の肥満は、単なる生活習慣の結果ではなく、脳内の食欲調節に関わる遺伝子の欠失が背景にあります。11p13の欠失がPAX6・WT1の周辺にとどまらず、隣接するBDNF(脳由来神経栄養因子)遺伝子まで及ぶと、満腹感を伝える視床下部の働きが弱まり、幼少期から強い食欲(過食)と体重増加が現れやすくなります。

GeneReviewsのWAGR spectrum disorderの解説では、BDNF遺伝子の欠失はWAGR症候群患者のおよそ半数で確認され、この欠失がある患者では肥満のリスクが明らかに高まると報告されています。米国の研究チームによる追跡研究でも、BDNF遺伝子のハプロ不全(片方の機能低下)が小児期からの体重増加と関連することが確認されました。私自身、遺伝カウンセリングの現場で、体重管理だけを指導されても改善しにくいご家族の背景に、こうした遺伝子レベルの要因が隠れているケースを見てきました。

WAGRO症候群で見られる小児期からの肥満のイメージ

体重管理は「意志の弱さ」の問題ではありません。この点をご家族にまずお伝えしたいと、私は診療のたびに感じています。BDNF遺伝子欠失による食欲調節の異常が背景にあると理解したうえで、栄養指導や運動療法に取り組むことが、現実的な体重管理につながります。

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3. 主な症状

WAGRO症候群では、WAGR症候群の4つの主症状に肥満が加わり、複数の診療科にまたがる症状が同時に現れます。代表的な症状とおおよその頻度を表にまとめました。

症状特徴目安の頻度・時期
ウィルムス腫瘍(腎腫瘍)小児に多い腎臓のがん。片側または両側の腎臓に発生WAGR患者の42.5〜77%、多くは4歳までに発症
無虹彩症虹彩が部分的または完全に欠損。視力低下や羞明を伴うWAGR症候群のほぼ全例に見られる中核症状
泌尿生殖器の異常停留精巣・尿道下裂・子宮や卵巣の異常など男児に多く報告される
知的障害・発達の遅れ言語や運動の発達の遅れ、行動面の特性を伴うことがあるWAGR患者の約70%
肥満(WAGRO)BDNF遺伝子欠失により小児期から過食・体重増加が進みやすいBDNF欠失を伴う例(WAGR患者の約半数)で顕著

①ウィルムス腫瘍(腎腫瘍)

WT1遺伝子の欠失が関わる合併症で、小児慢性特定疾病情報センターの解説によれば、ウィルムス腫瘍は小児の腎臓に発生する代表的な悪性腫瘍です。WAGR症候群の患者では多くが4歳までに、ほぼ全例が7歳までに発症するとされ、幼い時期ほど両側性(両方の腎臓に発生するケース)が多い傾向があります。腎機能の生涯にわたる経過観察が欠かせません。

②無虹彩症

PAX6遺伝子の欠失により起こる、虹彩の部分的または完全な欠損です。難病情報センターの指定難病情報でも、視力低下・羞明(まぶしさ)・眼振を伴いやすいことが説明されています。白内障や緑内障を合併する例もあり、定期的な眼科受診による管理が中心になります。

③泌尿生殖器の異常

男児では停留精巣や尿道下裂、まれに性腺芽腫が見られることがあります。女児では外見上の性器は通常正常な範囲にとどまりますが、子宮の形態異常が確認される場合もあります。

④知的障害・発達の遅れ

程度は軽度から重度までさまざまで、注意欠陥多動性障害(ADHD)や自閉スペクトラム症を伴う例も報告されています。すべての患者に一律の経過があるわけではありません。支えとなるのは、早期からの療育と教育支援。

⑤肥満(WAGROの「O」)

先述のとおり、BDNF遺伝子欠失に由来する食欲調節の異常が主な背景です。乳幼児期は標準的な体重で経過し、幼児期から学童期にかけて体重増加が目立ち始める例が多く報告されています。

WAGR症候群(11p13)
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4. 原因と遺伝形式(11p13欠失・多くは孤発性)

WAGRO症候群は、11番染色体短腕13(11p13)にある複数の遺伝子が連続して欠失する「連続遺伝子欠失症候群」のひとつです。欠失の大きさは約100万塩基対から2650万塩基対までさまざまで、この範囲の違いが症状の重さや組み合わせを左右します。中心となるのはPAX6遺伝子(無虹彩症の原因)とWT1遺伝子(泌尿生殖器異常・ウィルムス腫瘍リスクの原因)で、欠失がさらに広がりBDNF遺伝子まで及ぶとWAGRO症候群の表現型が現れます。

ほとんどのWAGR症候群WAGRO症候群は、両親のどちらかから受け継いだものではなく、精子や卵子が作られる過程で偶然生じる「孤発性(デノボ)」の変化です。妊娠中の食事や生活習慣が原因になることはありません。ごくまれに、11p13の均衡型転座など構造異常を親が保因している場合には常染色体顕性遺伝の形をとり、各妊娠で約50%の確率で子どもに影響が及ぶ可能性があります。次のお子さまを考える際は、遺伝カウンセリングで具体的な確率を確認してください。

5. 診断の流れ

診断のきっかけの多くは、出生後まもなく気づかれる無虹彩症です。先天性の無虹彩症が確認された場合、WT1・PAX6遺伝子を含む11p13領域の欠失があるかどうかを確認するため、染色体マイクロアレイ検査(CMA)による精密な遺伝子検査が行われます。従来の顕微鏡による染色体検査では検出できない微細な欠失も、CMAであれば範囲を特定できます。

欠失の範囲がBDNF遺伝子まで及んでいるかどうかを確認することで、将来的な肥満リスクを早期から見込んだ栄養指導やフォローアップ計画を立てやすくなります。あわせてWT1遺伝子の欠失が確認された場合は、ウィルムス腫瘍の早期発見のための定期的な腹部超音波検査が計画されます。診断や遺伝形式の詳しい考え方は遺伝カウンセリングについての記事もあわせてご覧ください。

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6. 出生前診断・NIPTとの関係

NIPTでWAGRO症候群を直接見つけられるかどうかは、検査の対象範囲によって変わります。一般的な基本NIPTは21・18・13トリソミーという染色体の「数」の変化を調べる検査で、11p13のような微小欠失は対象に含まれません。微小欠失・重複を対象に含む拡張NIPTであれば候補にあがることがありますが、WAGR/WAGRO症候群のように欠失の範囲や切れ目の位置が症例ごとに異なる変化は、決まった位置で起こりやすい代表的な微小欠失症候群と比べて検出の設計が難しく、対象に含まれるかは検査会社やプランによって異なります。事前にプランの検査範囲表で確認してください。

公益社団法人日本産科婦人科学会のNIPTに関する指針でも、NIPTの結果はあくまで非確定的なスクリーニング検査にとどまるとされています。厚生労働省のNIPT等の出生前検査に関する専門委員会報告書でも、微小欠失を含む拡張検査は分析的・臨床的な妥当性に限界があると指摘されています。NIPTで陽性所見が出た場合や、ご家族に既往がある場合は、羊水検査による染色体マイクロアレイ検査(CMA)で確定させることが必要です。すでにご家族にWAGR/WAGRO症候群の患者さんがいて原因となる欠失範囲が特定されている場合は、一般的なNIPTよりも、絨毛検査羊水検査でその欠失を狙って調べる方法のほうが正確です。NIPT全般で何がわかり、何がわからないかはNIPTでわかる染色体異常の種類についての記事も参考になります。

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7. 治療・管理

失われた遺伝子を元に戻す根本的な治療法はまだありませんが、小児科・腎臓内科・眼科・内分泌科・遺伝カウンセリングなど多職種が連携して支えます。

①ウィルムス腫瘍への対応

WT1遺伝子の欠失が確認された子どもには、3か月ごとの腎臓の超音波検査と小児腫瘍専門医によるフォローアップが推奨されます。腫瘍が見つかった場合は手術や化学療法が行われ、腎機能の生涯にわたるモニタリングが続きます。

②視覚管理

羞明への対応として遮光レンズや低視力補助具が使われ、白内障や緑内障には外科的介入が検討されることもあります。年1回程度の眼科検診で眼圧や角膜の変化を確認します。

③肥満(体重)の管理

WAGRO症候群に特化した公式ガイドラインはまだ整備されていませんが、内分泌専門医の指導のもとで、早期からの食事療法・運動療法・生活リズムの調整に取り組むことが有益とされています。BDNF遺伝子欠失という背景を踏まえたうえでの継続的な支援が、体重管理の土台になります。

④発達支援

言語療法・理学療法・作業療法を組み合わせた療育や、特別支援教育プログラムへの参加が、発達面の課題を支えます。行動上の困りごとがある場合は、必要に応じて専門的な評価を受けてください。

8. 予後とご家族への支援

予後は欠失の範囲や合併する症状の組み合わせによって一人ひとり異なります。治療の進歩により、高所得国ではウィルムス腫瘍と診断された子どもの約90%が5年生存を達成していますが、約15%で腫瘍の再発が見られるため、継続的なモニタリングが欠かせません。腫瘍学的な治療成績が良好な一方で、腎機能の慢性的な低下が長期的な課題として報告されています。欠かせないのは、生涯にわたる腎機能の経過観察。

WAGRO症候群という診断は、決してご両親の育て方や妊娠中の過ごし方が原因で起こったものではありません。希少疾患であるがゆえに、身近に同じ経験を持つ家族がおらず、孤立感を抱えやすいかもしれません。国際WAGR症候群協会のような患者会とつながることで、情報交換や心理的な支えを得られることがあります。病院のソーシャルワーカーや難病相談支援センターに相談すると、利用できる医療費助成制度を整理してもらえます。

次のお子さまに向けてNIPTを検討する場合、微小欠失をどこまで対象に含むかでプランの内容が変わります。ご自身に合うプランが分からない場合は、プラン診断を試してみてください。お電話でのご相談も受け付けています。0120-169-629までお気軽にお問い合わせください。

WAGR症候群の基本的な特徴や病因についてはWAGR症候群(11p13)についての記事で詳しく解説しています。11p13に近い領域の遺伝子疾患が気になる方はポトツキ・シェイファー症候群についての記事もあわせてご覧ください。

よくある質問

WAGRO症候群とWAGR症候群はどう違いますか。

別々の病気ではありません。WAGR症候群の4症状(ウィルムス腫瘍・無虹彩症・泌尿生殖器異常・知的障害)に加え、BDNF遺伝子欠失による高度肥満を伴う場合を、臨床的にWAGRO症候群と呼びます。

なぜ肥満を伴うのですか。

11p13の欠失がPAX6・WT1の周辺だけでなく、満腹感の調節に関わるBDNF遺伝子まで及ぶためです。BDNF遺伝子の欠失はWAGR症候群患者のおよそ半数で確認され、この欠失がある場合に小児期からの過食・体重増加が現れやすくなります。

遺伝形式は?次の子にも影響しますか。

ほとんどは孤発性(デノボ)の変化で、両親からの遺伝ではありません。まれに親が構造異常を保因している場合は常染色体顕性遺伝となり、各妊娠で約50%の確率で影響が及ぶことがあります。遺伝カウンセリングで確認してください。

NIPTでこの病気はわかりますか。

基本NIPTの対象ではありません。微小欠失を対象に含む拡張NIPTで候補にあがることがありますが、対象範囲は検査会社やプランによって異なります。陽性所見が出た場合も確定診断ではなく、羊水検査によるCMAでの確認が必要です。

確定診断はどのように行いますか。

出生後に確認された無虹彩症をきっかけに、染色体マイクロアレイ検査(CMA)でWT1・PAX6・BDNFを含む11p13領域の欠失範囲を特定します。あわせて腎臓の超音波検査や発達評価も行われます。

治療法はありますか。

根本的な治療法はまだありません。ウィルムス腫瘍への手術・化学療法、視覚管理、内分泌専門医による体重管理、発達支援を組み合わせ、多職種で継続的にサポートします。

監修:岡博史(おか ひろし) / 医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director。慶應義塾大学医学部卒業。日本とアメリカの医師国家試験に合格し、医学博士。国内でも数少ないラボディレクター資格を保有しています。本記事は医療広告ガイドラインに配慮し、GeneReviews・Orphanet・難病情報センター・小児慢性特定疾病情報センター・日本産科婦人科学会・厚生労働省などの公的機関・学会情報および学術論文を参照して作成しています。記載の頻度・数値は文献により幅があります。診断・治療の最終判断は担当医にご相談ください。

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引用文献

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WAGRO症候群は、WAGR症候群に肥満が加わった遺伝性疾患です。腎腫瘍や無虹彩症、発達遅延、肥満が特徴で、治療法や家族支援のポイントを詳しく解説します。

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医師監修 監修日:2024年11月14日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

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