妊娠中に起こる不眠~ストレスの原因と対策・対処法【医師監修】

妊娠中に不眠になるの原因

妊娠中に不眠や不安、イライラなどを感じる妊婦さんは少なくありません。妊娠中に生じる睡眠不足やストレス、またこれらの症状の原因や対処法と日常生活の過ごし方を医師が解説いたします。

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この記事のまとめ

妊娠初期の不眠はおもにホルモンバランスの変化によるものが多く、妊娠中期には横になっていると胎動が気になったり、腰痛や頻尿などにより不眠を感じる妊婦さんもいます。妊娠後期には浮腫、こむら返りなど運動不足が原因になるものもあります。不眠・睡眠障害の対処法は個人差がありますが、何よりもストレスをためないことが大切です。ぬるめのお湯につかったり、ウォーキングやマタニティヨガなど軽い運動をしたりリラックスすることを心がけると良いでしょう。

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はじめに

妊娠によって女性の身体には大きな変化が現れます。ホルモンバランス・体調や体型・また免疫低下などにより、これまでの日常生活とはまったく異なる生活リズムとなるでしょう。

妊婦さんから多く寄せられる相談の中に「昼間眠い」「眠りが浅い」「寝付けない」などの「睡眠障害(睡眠不足)」が挙げられます。個人差はありますが、妊娠中の不眠は妊娠の初期・中期・後期とすべての期間に生じることも少なくありません。

昼はつわりがひどく、夜に治まるため昼夜逆転してしまう妊婦さんや、臨月が近づき大きくなった子宮により膀胱(ぼうこう)が圧迫され、頻尿となるため夜に目が覚めてしまい眠れない妊婦さんも多くいらっしゃいます。

長期にわたる妊娠期間の中で、睡眠障害(睡眠不足)は疲れやストレスを引き起こし、胎児に影響を与えかねません。妊娠中に起こる不眠の理由・原因、対処法を知り、健やかな出産を迎えましょう。

妊娠中の不眠の原因

妊娠中に起こる不眠症の原因はさまざまです。しかし、妊娠初期の不眠はおもにホルモンバランスの変化によるものとされています。

妊娠初期(13週6日まで)

  • ホルモンバランスの変化
  • つわり(悪阻)
  • 寝汗
  • 頻尿
  • 不安(流産の不安・胎児の先天性疾患・高齢出産に対する不安など)

妊娠初期のイライラと不安はホルモンバランスの影響

妊娠4か月までの妊娠初期は、妊娠に大きく関わる3つのホルモンが分泌されることで、妊婦さんの身体や心には大きな変化が訪れます。

hCGホルモン

hCGホルモンとはヒト絨毛ゴナドトロピンともいわれ、妊娠維持に重要とされるホルモンです。妊娠検査薬の反応は、hCGホルモンが通常より多く分泌されることによって陽性反応を示します。

エストロゲン(卵胞ホルモン)

エストロゲンは妊娠の準備に必要なホルモンです。子宮内膜を厚くするほか、乳腺を発達させ産後の母乳をつくる働きをします。

プロゲステロン(黄体ホルモン)

子宮内膜に受精卵が着床しやすいように整えるホルモンです。子宮内膜の厚みを保ち、受精卵が着床すると妊娠継続の維持をおこないます。プロゲステロンは基礎体温の上昇や乳腺の発達、食欲増進の働きをします。

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妊娠初期の眠気と覚醒の原因は体温

妊娠初期症状には、エストロゲンとプロゲステロンの増加が大きく関わっています。どちらも妊娠を維持するために重要なホルモンとなりますが、エストロゲンとプロゲステロンのホルモンバランスの変化によって妊娠中の不眠を引き起こすといわれています。

睡眠と体温には深い関わりがあります。ヒトの身体は夜になると代謝が低下し、それにともない体温も下がっていきます。これは朝・昼の活動による脳のオーバーヒートを防ぐためとされ、夜眠れずに夜更かしをしていても、やや低体温となります。

プロゲステロンは眠気を生じるホルモンです。生理前に異常な眠気が起こるのは、プロゲステロンが原因といえるでしょう。しかし、プロゲステロンは体温を上げる(高温期)作用があることから、夜の寝つきに影響を与えます。これらのことから、妊娠中は昼に眠気を生じ、夜は体温が下がらず、なかなか眠れないなど不眠の原因となることも少なくありません。また、寝汗によって不眠となる妊婦さんもいらっしゃいます。

プロゲステロンは眠気だけでなく、月経前症候群(PMS)を引き起こすホルモンです。妊娠初期はイライラや、不安な気持ちを生じることも睡眠障害を招く原因とされています。もちろん、お腹の赤ちゃんの健康状態が心配で眠れない妊婦さんも多いことでしょう。

ホルモンバランスによる体温変化・メンタル面の影響以外には、つわりや子宮が大きくなることで膀胱圧迫による頻尿が睡眠障害を招くとされています。

妊娠中期(14週0日〜27週6日)

妊娠5か月〜7か月は安定期といわれる期間ですが、大きくなっていくお腹で息苦しい、睡眠時の姿勢の変化、腰痛などで夜中に目が覚め、不眠を生じる妊婦さんも少なくありません。

また妊娠中期は胎動が始まる時期ですので、日中は動いていて気にならない胎動が、横になって静かにしていると気になってしまい、眠れないこともあるでしょう。

妊娠中は胎児の成長にともない、子宮に多くの血液を送る必要があります。そのため血液量が増加し、その量は妊娠前と比べて約1.4〜1.5倍になるとされています。体液のバランスを保つため血液は腎臓でろ過され、余分な水分が尿となり排出されることから妊娠中は頻尿になりやすいといえるでしょう。妊娠中期は腎臓を通過する血液量が最大となり、頻尿を招きます。

さらに、大きくなった子宮に膀胱が圧迫され、尿を全て出し切ることが難しくなるため、残尿感も感じやすくなります。

これらのことが、質の良い睡眠の障害となっているのです。

また、血液量が増えると粘膜がむくむため、鼻づまりを起こし眠れない、といった妊婦さんもいらっしゃいます。

妊娠中期は胎児ともに、妊婦さんの精神面が安定する時期といわれています。しかし、切迫流産切迫早産と診断された妊婦さんは不安からの睡眠障害、または日中の活動が制限されることによるストレスから不眠となるケースも多くみられます。

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妊娠後期(28週~)

  • 動悸
  • 息切れ
  • むくみ(浮腫)
  • 胎動
  • 腰痛、背部痛など身体の痛み
  • むずむず脚症候群
  • 皮膚の痒み
  • こむら返り
  • 不安(出産に対する不安、出産後の不安)
  • 頻尿

妊娠中は血液量が増加します。妊娠後期には心臓に送られる血液量と心拍数は、非妊娠時よりもおよそ30〜50%に増えるため、寝ていても動悸が生じ息苦しいと感じることも少なくありません。また妊娠中は貧血になりやすいとされ、貧血も動悸の原因になります。妊娠後期となると胎児の成長とともに、お腹が大きくなり運動不足となる妊婦さんも多いことでしょう。そのため、血流が悪くなり身体にむくみ(浮腫)が生じやすいといわれています。

妊娠中に起こる皮膚の不快感やかゆみ症状

妊娠中に下肢にむずむずと不快な症状を特徴とする「むずむず脚症候群」を引き起こすケースも少なくありません。むずむず脚症候群のはっきりとした原因は解明されていませんが、夜の睡眠時に症状が現れやすく、睡眠障害を招くとされています。

性別を問わず発症するむずむず脚症候群とは異なり、妊娠時のみに起こる症状として「妊娠時そう痒性丘疹(PUPPP)」や「妊娠性疱疹」が挙げられます。いずれも強いかゆみにより、睡眠が妨げられ睡眠障害を招くとされています。内服薬や塗り薬によって、かゆみを抑えることができるため、これらの症状が現れた際はすみやかに診察を受けることが大切です。

妊娠中期から後期にかけて起こるこむら返り

妊娠中期から妊娠後期にかけて、こむら返りを起こす妊婦さんも多くみられます。「こむら」とは、ふくらはぎのことです。ふくらはぎの筋肉が痙攣し、異常な収縮によって起こる脚がつった状態をいいます。就寝中に、こむら返りを生じることもあるため、突然の痛みに飛び起きる妊婦さんもいらっしゃいます。

こむら返りは運動不足による下肢の血行不良、またはカルシウムやマグネシウム不足が原因とされています。しかし妊娠28〜31週頃からお腹が大きくせり出て、足元が見えづらくなることも。散歩をためらうようであれば、室内で足踏みをするだけでもかまいません。軽い運動と栄養バランスのとれた食事を心がけましょう。

マタニティハイとマタニティブルー

マタニティハイとマタニティブルーとは、妊婦さん特有の心の浮き沈みといわれています。

マタニティハイとは妊娠した喜びのあまり、他人に高揚感(ハイ)を押しつけてしまう行為とされています。相手の気持ちや状況を考えず妊娠の素晴らしさを解説してしまう、頼まれていないにも関わらずエコー写真を見せてしまう、などが挙げられます。なお、マタニティハイは医療用語ではありません。

一方、マタニティブルー(マタニティブルーズ)は、精神医学辞典にもある医療用語です。ホルモンバランスの変化も影響するとされ、妊娠中に不安で気分が落ち込む・出産に対する恐怖感・イライラなど感情のコントロールができない症状などが挙げられます。

妊娠中期に安定した心身の不調は、妊娠後期に再び現れることも少なくありません。なお、マタニティブルーは出産後にも発症するとされ、産後うつへと移行するケースもみられます。妊娠中はもちろん、出産後の心身の不調を感じた際は、家族やパートナー、または担当医に相談することが大切です。

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より良いマタニティライフを過ごすために

妊娠中はホルモンバランスや急激な身体の変化によって多くの妊婦さんが、さまざまな不安を感じることでしょう。また、つわりや頻尿、お腹の赤ちゃんの健康状態が気になり睡眠障害に悩む妊婦さんは少なくありません。

「夜になると寝れない」「胎動で睡眠不足」「頻尿で二度寝すらできない」これらは妊婦さんから受ける相談の一部です。しかし睡眠障害そのものが、流産早産など胎児へ影響を与えることは少ないとされています。

妊娠中の不眠対処法

妊娠中の不眠・睡眠障害の対処法は個人差がありますが、何よりもストレスをためないことが大切です。イライラや不安な気持ちはホルモンバランスの影響と考え、リラックスすることを心がけると良いでしょう。以下に妊娠中の不眠への具体的な対策・対処法を紹介します。

お風呂はぬるめのお湯に入る

お風呂に入り体温が上昇すると、その後体温が下がるタイミングで入眠しやすくなります。

熱過ぎるお湯は交感神経を刺激してしまうため、38°C〜40℃のぬるめのお湯で入浴するようにしてみましょう。個人差はありますが、就寝予定時刻の1時間半前くらいに入浴するのが効果的です。

また、妊娠中の長風呂は体に負担がかかるので、時間は10分以内を目安にしてみましょう。

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日中に軽い運動をする

日中の運動は睡眠の質を改善します。ただし、妊婦さんの場合は激しい運動は体の負担になるため、軽めの運動を選択するようにしてください。

ウォーキングやマタニティヨガなどがおすすめです。

不眠対策もできる呼吸法

ヨガの呼吸法には、心身を調整する効果があるとされており、ヨガをすると睡眠の質が良くなると報告されています。

妊娠6~10か月の妊婦さんを対象とした調査でも、ヨガの実施後にストレスが軽減していたことが確認されています。特に妊娠8か月ではヨガ実施の方が良好な睡眠が得られていたことが確認されました。

マタニティヨガのクラスに参加してみたり、それが難しい場合はご自身で本などで調べて呼吸法に取り組んでみたりするのも良いでしょう。

ご自身で取組む場合、一部のヨガのポーズは妊娠中の体に負担になる恐れがあるので呼吸法にとどめるようにしましょう。

夜寝る前にパソコンやスマホ、テレビを見ない

パソコンやスマホ、テレビから出るブルーライトは、睡眠を促すメラトニンというホルモンの分泌を抑えるため、睡眠を障害する原因となります。

良質な睡眠を確保するためにも、夜寝る前にはパソコンやスマホ、テレビを見るのは控えるようにしましょう。

仮眠は短時間で

昼間に長時間の仮眠をとってしまうと、夜に眠れなくなる原因となります。体内時計がくるってしまう原因にもなるので、昼間の仮眠はするにしても、短時間でとどめるようにしましょう。

睡眠薬は服用しても大丈夫?

睡眠薬には妊娠中に服用してはいけないものもあります。また、睡眠薬の中でもよく使用されるベンゾジアゼピン系薬は催奇形性のリスクが増すことはないとされていますが、流産などの関連が指摘されています。

ただし、医師が必要と判断した場合には服用できる睡眠薬もありますので、不眠で辛い場合は無理しすぎず、かかりつけの医師に相談するようにしましょう。

漢方薬やサプリメントは使える?

漢方薬やサプリメントは西洋薬に比べて体に優しいと思われがちですが、子宮を収縮させたりするなど、妊娠中の体に影響を与えるものもあります。

漢方薬やサプリメントを服用したい場合は自己判断せず、病院を受診し必ず医師に相談するようにしましょう。

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【参考文献】

妊娠中に不眠や不安、イライラなどを感じる妊婦さんは少なくありません。妊娠中に生じる睡眠不足やストレス、またこれらの症状の原因や対処法と日常生活の過ごし方を医師が解説いたします。

NIPT(新型出生前診断)について詳しく見る

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記事の監修者


岡 博史先生

岡 博史先生

【役職】

NIPT専門クリニック医学博士
ヒロクリニック統括院長

【資格】

平成8年 医師免許 取得 
平成14年 慶應義塾大学医学博士号 取得
平成15年 皮膚科専門医 取得
平成29年 産業医 取得

【略歴】

平成8年 慶應義塾大学医学部 卒業
平成8年 慶應義塾大学医学部皮膚科学教室 入局
平成11年 川崎市立川崎病院総合心療内科 勤務
平成12年 川崎市立川崎病院皮膚科 勤務
平成14年 慶応義塾大学病院皮膚科 勤務
平成17年 城本クリニック 勤務
平成20年 ヒロクリニック開院・院長就任
平成21年 医療法人社団福美会 設立・理事長就任

【所属】

医療法人社団福美会

【SNS】

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