はじめに
「お風呂に入るのは好きだけれど、妊娠中ってお風呂に入ってもいいの?」と疑問に思う方もいるのではないでしょうか。
妊娠中は普段の体の状態と異なる点も多いため、これまでと同じように入浴しても良いのか疑問に思われる方も多いでしょう。
今回は妊娠中のお母さんが安心して入浴するために、また、お腹の中にいる赤ちゃんの健康のために、妊娠中の入浴で気を付けることを紹介します。
入浴するメリットや入浴剤の使用、温泉に入ってもいいのか、などについても紹介しているので、妊娠中の入浴に迷っている方はぜひ参考にしてください。

妊娠中はお風呂(湯船)に入っても良い?
まず、結論からお伝えすると妊娠中はお風呂(湯船)に入っても良いです。
妊娠の有無に関わらず、特に体調不良であったり、医師に止められたりしていなければ、妊娠中でも入浴して問題ありません。
むしろ、妊娠中に入浴することで得られるメリットがあります。
妊娠中に入浴することのメリット
妊娠中の入浴には、さまざまなメリットがあります。
妊娠中は、ホルモンバランスが崩れたり、体の血液量が増加したりすることで、むくみやすくなります。湯船に入り体が温まることによって、血管が広がり、血流が促進されてむくみが軽減します。また、体に水圧がかかることで血管が刺激され、足に溜まっていた血液が心臓へと押し戻されるのです。
このように、妊娠中に入浴することは妊娠中に起こりやすいむくみの軽減効果を期待できます。
また、お風呂が好きな方にとっては、入浴することでリラックス効果を得られるでしょう。
妊娠中はホルモンバランスの崩れやつわりなどで、ストレスや疲労を感じやすくなっています。ストレスや疲労で疲れた体を入浴で癒してあげることも、妊娠中に入浴することのメリットです。
妊娠中の入浴で気を付けるべきこと
妊娠中の入浴にはメリットがありますが、やはり妊娠中の体の状態は普段と異なる点もあるため、注意しなければならないことがあります。
ここでは、妊娠初期・妊娠中期・妊娠後期それぞれの時期において、入浴で気を付けるべきことを確認していきましょう。
妊娠初期
妊娠初期は、妊娠してから13週6日までの期間です。
ホルモンバランスの乱れによって、体のだるさや気分の変化、嗅覚の変化、肌トラブルなど、さまざまな症状が現れることがありますが、まだ体型や体調に大きな変化が起きていないことも多く、妊娠初期は普段と変わらずに入浴できる場合が多いでしょう。
ただし、ホルモンバランスの影響によって生じた嗅覚の変化や肌トラブルから、これまで使っていたボディソープの匂いが気になったり、肌に合わなかったりすることがあります。
妊娠中の体に合わないと感じた時には、低刺激のものや無香料、妊娠中の体に合う香料のシャンプー・ボディソープ・入浴剤などに変更しましょう。
つわりがある場合
妊娠初期には、吐き気や胃のむかつきなどを感じるつわりが起きることがあります。
つわりがある場合で症状が辛い時は、無理をして入浴するのはやめましょう。無理して入浴すると、かえって気分が悪化したり、気持ち悪いといった症状がでたりする可能性があります。
そのため、つわりがある場合はシャワー浴やお湯で濡らしたタオルで体を拭くなどして、清潔を保つようにすることがおすすめです。
NIPT(新型出生前診断)は妊娠初期から
お腹の中の赤ちゃんが健康に生まれてくるかどうか、心配になる方も多いでしょう。
出産前にお腹の中にいる赤ちゃんに異常がないか調べる検査のことを「出生前診断」といいます。
ヒロクリニックNIPTでは、お腹の中にいる赤ちゃんに染色体の異常がないかを調べるNIPT(新型出生前診断)を妊娠初期より受けることが可能です。NIPTをおこなうことで、ダウン症候群やエドワーズ症候群、パトウ症候群などのリスクの有無を評価できます。
検査はお母さんの採血のみでおこなうことができるため、赤ちゃんの染色体に異常がないか調べたい方は検討してみると良いでしょう。
妊娠中期
妊娠中期は、14週0日〜27週6日までの期間です。妊娠初期に感じていた体のだるさやつわりが落ち着いてくること、また流産のリスクが低下して母子ともに状態が安定することから、一般的に安定期ともいわれます。
妊娠中期に入ると、赤ちゃんが段々と大きくなってくるため、お腹が大きくなり、体型の変化もみられます。また、お腹が大きくなるのに伴い、体重も増加していきます。そのため、妊娠中期の入浴では体型や体重の変化による浴室での転倒に注意が必要です。
入浴する際には、これまでも入ってきたお風呂だからといって油断せずに、転倒に注意しながら入浴しましょう。
安定期でも油断は禁物
妊娠中期は安定期といわれていますが、油断は禁物です。
状態は安定していても、病気に感染してしまったり、転倒してお腹をぶつけたりしてしまうと、早産・流産してしまう可能性があります。安定期に入ったからといって油断はせずに、注意しながら入浴してください。
妊娠後期
妊娠後期は、妊娠してから28週以降の期間です。
妊娠後期に入るとお腹もだいぶ大きくなり、お腹の張りや動きにくさ、腰痛などが現れてきます。
妊娠中期よりもお腹が大きくなるため、足元の見づらさや体のバランスの崩れやすさなどがより顕著になり、転倒しやすい時期といえるでしょう。
そのため、妊娠後期は妊娠中期以上に入浴の際の転倒に注意する必要があります。
臨月は特に転倒に注意
妊娠36週〜39週ごろの出産直前、いわゆる臨月といわれる時期は特に転倒に注意してください。
臨月に転倒してしまうと、常位胎盤早期剥離といって、出産より前に胎盤が剥がれてしまう可能性があります。常位胎盤早期剥離が起きると、性器出血や最悪の場合、胎児が死亡してしまうこともあるのです。臨月は特に転倒に注意して入浴してください。
破水があったら入浴は中止する
臨月に入るといつ赤ちゃんが産まれてきても、おかしくありません。
入浴中に破水してしまう可能性もあります。もし、入浴中に破水があったら入浴は速やかに中止してください。破水した状態では、赤ちゃんがいる子宮内と体の外が繋がってしまい、細菌が子宮内に入りやすくなっています。
細菌が子宮内に入って赤ちゃんに感染してしまうと、赤ちゃんの健康に害を与えてしまう可能性があります。破水があったらすぐに入浴は中止して、病院へ連絡をしましょう。
温度や入浴時間の目安
妊娠中に入浴する時のお風呂の温度は、38度〜40度を目安にしましょう。あまりに熱いお湯は体に刺激を与えてしまいますし、ぬる過ぎるお湯は体を冷やしてしまいます。
また、のぼせてしまわないために、長い時間の入浴は避け、10分程度を目安に湯船につかると良いでしょう。
湯冷め
入浴後には、湯冷めに注意してください。
入浴して体を温めると、体は元の体温へと下げようとして放熱する働きがあります。その結果、湯冷めといって入浴前よりも体温が下がり過ぎてしまうことがあります。入浴後は湯冷めしないように、早めに髪を乾かしたり、すぐに外出したりしないようにしましょう。
入浴剤について
お風呂に入る時に入浴剤を使用している方も多いでしょう。
妊娠中だからといって、入浴剤の使用を止める必要はありませんが、ホルモンバランスの乱れによる嗅覚の変化で今まで使っていた入浴剤の香りを受け付けなくなることがあります。
その際は無理をせず、使用を止めたり、香りの弱い入浴剤を使用したりしてください。

感染症
妊娠中は普段よりも免疫が低下しているため、感染症のリスクが高くなります。
ご自宅のお風呂で入浴する際はあまり心配はありませんが、銭湯や温泉施設などの公衆浴場では不特定多数の方が入っているため、感染症のリスクが高くなることが考えられます。
温泉に入っても良い?
2014年までは、温泉の保護や利用に関する法律である温泉法において、禁忌症の項目の中に「妊娠中(特に初期と末期)」が含まれていました。しかし、妊娠中に温泉入浴してはいけないという医学的な根拠はないことから、2014年の改正の際にこの文言は削除されました。そのため、妊婦さんであっても温泉に入って大丈夫です。温泉の泉質についても、「特定の泉質が妊婦に影響を与える」という根拠はありません。
ただし、温泉に入りに行くために遠くの温泉地に遠出するのは避けた方が良いでしょう。妊娠中は経過が順調でも何が起きるかわかりません。突然、お母さんやお腹の中にいる赤ちゃんにトラブルが生じる可能性もあるため、通っている病院から離れた場所に行くのは避けた方が賢明でしょう。
妊婦さんが安全に入浴するためのポイント
妊婦さんが安全に入浴するためのポイントは、以下の5つです。
- 転倒に注意して入浴する
- お湯の温度は38度〜40度、入浴時間は10分程度が目安
- 体調が悪い時には、無理をせずにシャワーや清拭にする
- いざという時に備えて家族がいる時間帯に入浴する
- 破水したら速やかに入浴を止める
安全に入浴するためのポイントを押さえて、妊娠中も入浴してみてください。
まとめ
今回は妊娠中の入浴について解説しました。
妊娠中も入浴することは可能ですが、転倒や入浴時間・温度などに注意することが大切です。
適切に入浴できれば、妊婦さんにとって多くのメリットもあります。本記事を参考に、妊娠中も安全に入浴を楽しんでください。
【参考文献】
- J-STAGE – 妊婦の温泉浴の安全性の検討
- 日産婦医会報(平成22年2月号) – 妊婦と温泉
Q&A
よくある質問
妊娠中の入浴についてよくある質問をいくつかまとめてみました。参考にしてみてください。
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Qサウナに入っても良い?ヒロクリニック名古屋駅前院 院長白男川 邦彦妊娠中は、サウナに入るのは避けた方が良いでしょう。
サウナは適切に入らないと、脱水症状や熱中症になるリスクがあります。
また、深部体温が上がり過ぎてしまうと、胎児に悪影響が及ぶ可能性もあるため、妊娠中のサウナは避けてください。 -
Q妊娠中はシャワーだけで済ませるのは良くない?渡邉榮二妊娠中はシャワーだけで済ませても、問題ありません。むしろ、体調が悪いのに無理して入浴する方が体に悪影響です。
体調に合わせて、湯船に浸かったり、シャワーを浴びたりしましょう。
記事の監修者

川野 俊昭先生
ヒロクリニック博多駅前院 院長
日本産科婦人科学会専門医
産婦人科医として25年以上、主に九州で妊婦さんや出産に向き合ってきた。経験を活かしてヒロクリニック博多駅前院の院長としてNIPT(新型出生前診断)をより一般的な検査へと牽引すべく日々啓発に努めている。
略歴
1995年 九州大学 医学部卒業
1995年 九州厚生年金病院 産婦人科
1996年 九州大学医学部付属病院 産婦人科
1996年 佐世保共済病院 産婦人科
1997年 大分市郡医師会立アルメイダ病院 産婦人科
1998年 宮崎県立宮崎病院 産婦人科 副医長
2003年 慈恵病院 産婦人科 医長
2007年 日本赤十字社熊本健康管理センター診療部 副部長
2018年 桜十字福岡病院 婦人科
2020年 ヒロクリニック博多駅前院 院長
資格
日本産科婦人科学会専門医
検診マンモグラフィ読影認定医
日本スポーツ協会公認 スポーツドクター
厚生労働省認定臨床研修指導医
日本抗加齢医学会専門医