妊娠中に避けるべき「5つの食品」と胎児へのリスク

妊娠中は、お腹の赤ちゃんの健やかな成長のために、日々の食生活に特別な注意を払う必要があります。普段は何気なく口にしている「健康に良い」とされる食品であっても、妊娠という特殊な状況下においては、胎児の命や発達に重大な悪影響を及ぼすリスクが潜んでいることがあります。

本コラムでは、多くの妊婦さんが陥りがちな食事の落とし穴について、医学的な観点から客観的に解説します。胎児の奇形リスク、脳神経への影響、そして流産や死産といった深刻な事態を防ぐため、妊娠中に絶対に知っておくべき「5つの食品」に関する真実をお伝えします。

1. 脂溶性ビタミンによる過剰摂取の罠:レバー(ビタミンA)

貧血予防などの目的で、栄養価の高いレバーを積極的に食べようとする妊婦さんは少なくありません。しかし、「ビタミンA」の含有量という観点から見ると、レバーの食べ過ぎは極めて危険です。

ビタミンには大きく分けて「水溶性ビタミン」と「脂溶性ビタミン」の2種類が存在します。ビタミンCやビタミンB群などの水溶性ビタミンは水に溶ける性質を持つため、人間がプールに入っても体内に水が際限なく取り込まれて死ぬことがないように、過剰に摂取しても尿として体外へ排出されます。 一方で、ビタミンAなどの「脂溶性ビタミン」は油に溶ける性質を持っています。そのため、摂取すればするほど体外に排出されずに体内に蓄積されていくという厄介な特徴があります。

妊娠初期にビタミンAを過剰摂取すると、胎児の奇形リスクが上昇することが報告されています。妊婦が1日に摂取してよいビタミンAの許容量は「2,700μg(マイクログラム)」とされています。 これに対し、鶏レバー(100gあたり)に含まれるビタミンAの量は、なんと「14,000μg」にも上ります。これは、焼き鳥のレバー串を「3分の2本」食べただけで、あっという間に1日の許容量を超過してしまうことを意味します。

なお、同じくビタミンAが豊富な「うなぎ」についても100gあたり約2,400μgが含まれています。鶏レバーほど異常な数値ではないため、1食食べただけで即座に危険というわけではありませんが、毎日のように頻繁に食べることは避けるべきです。一方で、鶏の唐揚げ(むね肉やもも肉など)はビタミンA含有量が少ないため、カロリーにさえ気をつければ食べても問題ありません。

2. 胎盤を通過する寄生虫の恐怖:生ハム・生肉(トキソプラズマ)

次に注意すべきは、加熱処理されていない肉類です。生ハムや、加熱が不十分な豚肉・羊肉には、「トキソプラズマ」という寄生虫が潜んでいる可能性があります。 実は、世界の人口の約3分の1はこのトキソプラズマに感染していると言われています。大人が感染しても、筋肉や脳の中に寄生するだけで、目立った症状が出ることはほとんどありません。妊婦さん自身がトキソプラズマを含む生肉を食べても、無症状であることが大半です。

しかし、これが「妊娠初期」の感染となると事態は一変します。トキソプラズマは胎盤を通過して胎児に感染し、流産や死産を引き起こすほか、胎児に重大な奇形をもたらす恐れがあります。その代表的なものが「水頭症(すいとうしょう)」です。これは頭の中に水が溜まり、頭が極端に大きくなってしまう病気で、重篤な知的障害を伴います。 さらに恐ろしいのは、出生直後には異常が見られず、2歳ほどに成長してから「発育がおかしい」と気づき、調べてみたら胎児期におけるトキソプラズマ感染が原因であったと判明するケースがあることです。

豚肉や羊肉は、昔からしっかりと火を通すことが推奨されています。(牛肉は比較的トキソプラズマのリスクが低いとされていますが、妊娠中は念のため加熱すべきです)。 また、トキソプラズマは「猫のフン」にも存在します。妊娠中に猫のトイレ掃除をする場合は、必ず手袋とマスクを着用するか、可能な限りご家族の他の方に代わってもらうなどの厳重な対策が必要です。

3. 冷蔵庫内でも増殖する細菌:ナチュラルチーズ(リステリア菌)

乳製品の中でも、妊娠中に避けるべきなのが「ナチュラルチーズ」です。カマンベールやブリーなどの加熱殺菌処理がされていないナチュラルチーズには、「リステリア菌」という食中毒菌が残存している可能性があります。 リステリア菌の最も厄介な特徴は、「冷蔵庫の低温環境下でも生存し、増殖することができる」という点です。冷蔵庫に入れておけば安心、という常識が通用しません。

妊娠中の女性は、免疫機能の変化により、一般の人に比べてリステリア菌に感染するリスクが「約17倍」も高いとされています。もし妊娠中にリステリア菌に感染すると、細菌が胎児にまで影響を及ぼし、流産早産、死産といった最悪の事態を引き起こす原因となります。

ただし、すべてのチーズが危険なわけではありません。製造過程で加熱処理が行われている「プロセスチーズ」は、熱によってリステリア菌が死滅しているため安全に食べることができます。 また、日本国内で製造されているナチュラルチーズは、食品衛生法によって原乳の加熱殺菌が義務付けられているため、比較的安全とされています。しかし、「絶対」とは言い切れないため、心配な方は避けるのが無難です。特に、海外産(フランス産など)の輸入ナチュラルチーズを加熱せずにそのまま食べることは、妊娠中は絶対に避けてください。

4. 食物連鎖がもたらす重金属の蓄積:大型魚・マグロ(メチル水銀)

魚介類は良質なタンパク質やDHAなどの栄養源として優れていますが、種類によっては厚生労働省によって摂取量の制限が設けられています。その代表格が「マグロ」などの大型魚です。 海中には微量の水銀が存在しており、プランクトンを小魚が食べ、その小魚を中型魚が食べ、さらにそれを大型魚が食べるという「食物連鎖」の過程を経て、大型魚の体内に「メチル水銀(有機水銀)」が高濃度に濃縮・蓄積されていきます。

クロマグロ(本マグロ)やメバチマグロ、カジキといった大型魚を妊婦が過剰に摂取すると、蓄積されたメチル水銀が胎盤を通過し、胎児の脳や中枢神経の発達に悪影響を与える懸念が指摘されています。 そのため、厚生労働省はこれらの大型魚について、1週間の摂取目安量を「80g程度」に制限するよう注意喚起を行っています。80gとは、お寿司に換算すると「約5〜6貫」程度です。週に一度マグロのお寿司を食べるだけで、あっという間に上限に達してしまう量ですので、高級なマグロを頻繁に食べるのは控える必要があります。

一方で、同じマグロでもキハダマグロやビンナガマグロ、ツナ缶などは水銀の含有量が少なく、制限の対象外です。また、鮭(サケ)、イワシ、サバなどの魚も水銀の心配はありません。特にイワシなどには、胎児の発達や母体の健康に有益な「オメガ3脂肪酸」が豊富に含まれているため、これらは積極的に摂取することが推奨されます。

5. 発がん性と無機ヒ素のリスク:ひじき

和食の代表的な健康食材であり、鉄分や食物繊維が豊富とされる「ひじき」ですが、実は世界的な基準で見ると、妊娠中には避けるべき食材の一つとしてリストアップされています。 ひじきには、「無機ヒ素」と呼ばれる有害な物質が大量に含まれています。乾燥ひじき100gあたり、平均して約77mgもの無機ヒ素が検出されています。ヒ素は体内に蓄積しやすく、継続的な過剰摂取は「発がん性」のリスクを高めることが分かっています。

この事実を受け、イギリスの食品基準庁(FSA)は2004年に「妊婦はひじきの摂取を中止すべきである」という明確な勧告を出しました。一部の専門家も、妊婦や3歳未満の幼児にはひじきを食べさせるべきではないと警鐘を鳴らしています。

「健康に良い」と信じて積極的にひじきを食べていた方にとっては衝撃的な事実かもしれません。どうしてもひじきが食べたい場合は、調理前にたっぷりのお湯で「茹でこぼし(一度茹でてお湯を捨てること)」を行ってください。無機ヒ素はお湯に溶け出す性質があるため、茹でこぼしを行うことでヒ素の量を約10%程度まで大幅に減らすことができます。とはいえ、決して必須の食材ではないため、妊娠中や幼い子どものうちは、あえて食べる必要はないと言えるでしょう。

おわりに

妊娠中は、ご自身の体調の変化に加え、食事の制限まで加わることでストレスを感じてしまうこともあるかもしれません。しかし、今回解説した「ビタミンA(レバー)」「トキソプラズマ(生肉)」「リステリア菌(ナチュラルチーズ)」「メチル水銀(大型魚)」「無機ヒ素(ひじき)」という5つの知識は、お腹の赤ちゃんの未来の健康と命を直接的に守るための強力な盾となります。

すべてを完璧に制限することは難しいかもしれませんが、メカニズムや理由を正しく理解することで、危険な食品を自然と回避できるようになります。日々の正しい選択が、元気な赤ちゃんとの対面につながります。疑問や不安があれば、決して自己判断せず、医師や医療機関に相談しながら、安全で健やかなマタニティライフをお送りください。

医師監修 監修日:2026年6月26日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。