「染色体」「遺伝子」「ゲノム」という言葉を聞いても、違いを正確に説明できる方は多くありません。
妊娠がわかったタイミングでNIPT(新型出生前診断)を検討し始めると、こうした専門用語に戸惑う方が少なくありません。
この記事では、染色体・遺伝子・ゲノムの基礎知識を平易に整理します。
そのうえで、NIPTがどのレベルまで胎児の情報を明らかにできるのかを解説します。
ヒトの体は細胞・染色体・遺伝子でできている
結論から言うと、ヒトの体は約37兆個の細胞からなり、そのひとつひとつの核に染色体が納められています。
そして染色体を構成するDNAの一部が「遺伝子」とよばれる遺伝情報の単位です。
細胞とは何か
細胞は「生体を構成する最小単位」です。
皮膚、筋肉、神経、臓器など、ヒトの体のあらゆる組織は細胞の集まりでできています。
受精卵というたった1個の細胞が分裂を繰り返し、最終的におよそ37兆個まで増えながら、さまざまな臓器を形づくっていきます。
細胞の中の「核」に遺伝情報が集まっている
細胞は細胞膜に包まれ、内部には小胞体やミトコンドリアなど複数の構造物が詰まっています。
その中でも中心的な役割を担うのが「核」です。
遺伝子の多くは染色体という形で核の中に格納されており、その情報が一定の規則にしたがって親から子へ伝わります。
体質や疾患のなりやすさなど、その人を特徴づける情報の大部分は、この核内の染色体に記録された情報によって決まります。
なお、核以外にもミトコンドリアには独自の遺伝子が存在し、これは母親由来のみで受け継がれる点が特徴的です。
染色体とは|数・構造・性別を決めるしくみ
染色体とは、核の中に格納された遺伝情報の集合体です。
ヒトは通常46本(23対)の染色体を持ち、そのうち2本が性別を決める性染色体です。
染色体は細胞分裂のときだけ「棒状」になる
染色体は普段、染色質という細い繊維の状態で核内に広がっています。
細胞分裂の際にだけ、教科書でよく見るX字型の凝縮した染色体の姿になります。
生物によって染色体の数は異なる
染色体の数は生物種ごとにさまざま。
ヒトは46本ですが、ネコは38本、ショウジョウバエは8本と少なく、金魚は104本とヒトより多く持ちます。
体の大きさと染色体数は比例しません。
染色体は通常2セットずつ、偶数本で存在するのが基本です。
ヒトの場合、23本で1セットとなる染色体を父親と母親からそれぞれ1セットずつ受け継ぎ、合計46本になります。
このうち44本(22対)が常染色体、残り2本(1対)が性染色体です。
性染色体が男女の違いを決める
男女の違いを染色体レベルで決めるのが性染色体です。
男性はX染色体とY染色体を1本ずつ、女性はX染色体を2本持ちます。
母親はX染色体しか持たないため、必ずX染色体を子どもに渡します。
父親からY染色体を受け継げば男の子、X染色体を受け継げば女の子です。
つまり、赤ちゃんの性別を決める鍵は父親由来の染色体。
染色体を形づくるDNAのしくみ
染色体の本体は「DNA」という物質です。
DNAの構造を理解すると、遺伝子がどのように働くかが見えてきます。

DNAは4種類の塩基が連なった鎖
DNAはデオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid)の略称です。
糖・リン酸・塩基からなる「ヌクレオチド」という単位が鎖のように連なってできています。
塩基にはアデニン(A)・グアニン(G)・シトシン(C)・チミン(T)の4種類があります。
この4文字の並び方(塩基配列)が、遺伝情報そのものです。
さらに、AにはT、CにはGが結びつく形でもう1本の鎖が対になり、二重らせん構造をとります。
この構造のおかげで、細胞分裂のたびにDNAが正確にコピーされます。
DNAは「タンパク質の設計図」
DNAはしばしば「生命の設計図」と表現されます。
塩基配列の情報がタンパク質の作り方を指定しているためです。
ヒトの体は約10万種類のタンパク質でできているといわれます。
ホルモンや抗体、酵素、コラーゲンなど、体の機能と構造を支える物質の多くがタンパク質です。
目に見える部分も見えない部分も、体のあらゆる場所でタンパク質が働いており、その設計図がDNAの配列に刻まれています。
遺伝子とゲノム|「設計図の一部」と「全体」
遺伝子とは、DNAの中でも実際にタンパク質の情報として使われる部分を指します(米国国立医学図書館 MedlinePlus)。
ヒトのDNA全体のうち遺伝子として機能する部分は数パーセント程度にすぎません。
遺伝子は「遺伝する情報の単位」
髪質や目の色といった容姿、病気へのなりやすさ、体質などが親から子へ受け継がれることを「遺伝」といいます。
親のDNAが複製され、卵子や精子を介して子に受け継がれる仕組みです。
ヒトの染色体1セットには、約2万個以上の遺伝子が存在します。
ヒトのDNA配列は個人間で99.9%が共通しており、残り0.1%の違いが外見や体質の差を生み出します。
ただし、一卵性双生児のように同じ遺伝子を持っていても性格や体質に差が出る例からわかるとおり、生活習慣や環境の影響も無視できません。
がんになりやすい体質を遺伝的に持っていたとしても、必ず発症するとは限らないのです。

ゲノムは「1セット分の遺伝情報すべて」
「ゲノム」は遺伝子(gene)と染色体(chromosome)を組み合わせた言葉です。
1セットの染色体に含まれるDNA塩基配列と遺伝子情報の全体を指します。
ヒトゲノムは約30億個の塩基対で構成されています(国立遺伝学研究所)。
1953年にDNAの二重らせん構造が提唱され、2003年にヒトゲノムの解読が完了しました。
ゲノム解析の技術は年々進化しており、医療分野への応用は今も広がり続けています。
NIPTもこのゲノム解析技術の発展によって実用化された検査のひとつです。
染色体・遺伝子の異常でどんなことが起こるのか
染色体やDNAの情報に異常があると、疾患を持って生まれる可能性が高まります。
異常は大きく「数的異常」と「構造異常」の2種類に分けられます。
| 異常のタイプ | 内容 | 代表例 |
|---|---|---|
| 数的異常 | 染色体の本数が1本多い、または少ない状態 | 21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーなど |
| 構造異常 | 染色体の一部が欠けたり、別の染色体と結合したりする状態 | 部分欠失、部分重複、転座など |
こうした染色体異常が原因で起こる疾患を「先天性疾患」といいます。
代表的な先天性疾患には以下のものがあります。
数的異常・構造異常のより詳しい分類は、染色体異常の種類一覧の記事で解説しています。
遺伝の仕組み自体をもう少し詳しく知りたい方は、遺伝の基本知識の記事もあわせてご覧ください。
NIPT(新型出生前診断)で遺伝子レベルの情報がわかる理由
NIPTを活用すると、赤ちゃんの染色体や一部の遺伝子情報を出生前に調べられます。
その仕組みは、妊婦さんの血液にヒントがあります。
母体の血液に含まれる胎児由来DNAを解析する
妊婦さんの血液には、胎盤に由来するDNA断片がおよそ10%程度含まれています。
NIPT(non-invasive prenatal genetic testing、新型出生前診断)は、この血液を採取して解析することで、胎児の染色体数や一部の遺伝子情報を調べる検査です。
羊水検査や絨毛検査のようにお腹に針を刺す必要がないため、母体・胎児への身体的な負担がほとんどありません。
検査の具体的な手順はNIPTはどんな手順で検査するの?の記事で詳しく紹介しています。
日本国内には、NIPTを適切な体制で実施する施設かを確認する認証の仕組みがあります。
審査基準には遺伝カウンセリング体制などが含まれます(国立成育医療研究センター)。
SNSでも、出生前診断の種類を整理して発信している方がいます。
「@HY_BABYJP」さんは、超音波検査・母体血清マーカー検査・NIPT・羊水検査・絨毛検査という5つの検査の違いを図解付きで解説していました(@HY_BABYJP)。
検査ごとに「わかる範囲」と「体への負担」が違う点は、来院された妊婦さんに私たちが必ずお伝えしている内容と一致します。
ヒロクリニックのNIPTで調べられる項目の広さ
NIPTと一口にいっても、検査会社やプランによって調べられる範囲は大きく異なります。
ヒロクリニックのNIPTは、基本の3疾患だけでなく、遺伝子・染色体レベルまで幅広くカバーしている点が特徴です。
| 検査カテゴリ | 調べられる範囲の目安 |
|---|---|
| 基本トリソミー | 21トリソミー・18トリソミー・13トリソミーの3疾患 |
| 全染色体異数性 | 1〜22番の常染色体と性染色体すべての数的異常 |
| 微小欠失・重複 | 143種類の微小欠失・重複症候群 |
| 部分欠失・重複 | 54種類以上の染色体の部分的な欠失・重複 |
| 単一遺伝子疾患 | 200種類以上の遺伝子1つの変化で起こる疾患 |
| キャリアスクリーニング | 両親が保因者かどうかを調べる231項目 |
| WES・WGS | 全エクソーム解析・全ゲノム解析によるさらに詳細な遺伝子解析 |
キャリアスクリーニングは、両親のどちらかが同じ潜性(劣性)遺伝疾患の保因者だった場合に赤ちゃんへ影響が出るリスクを調べるものです。
保因者であっても本人が発症するわけではありませんが、カップルで同じ疾患の保因者が重なった場合は、赤ちゃんに影響が出る確率が上がります。
そのため、カップルそれぞれが保因者かどうかを事前に把握できることには大きな意味があります。
基本トリソミーから単一遺伝子疾患、WES・WGSまで、必要に応じて検査範囲を選べる設計です。
結果は「陽性スコア」と「陽性的中率」で正確に読み解く
NIPTの結果は、単純な「陽性・陰性」だけで判断すると誤解を招きます。
ヒロクリニックでは、対象疾患ごとの確率を示す「陽性スコア」と、陽性判定が実際に正しい確率を示す「陽性的中率」をあわせたレポートを提供しています。
陽性的中率は、年齢や検査時期によって変動する確率指標。
数字だけを見て一喜一憂せず、遺伝カウンセリングで結果の意味を確認することが、正確な理解につながります。
カウンセリングの重要性についてはNIPTに遺伝カウンセリングは必要?の記事でも紹介しています。
SNSでも「NIPTの微小欠失検査で知的障害がわかる、というイメージを与える宣伝には注意してください」と呼びかける投稿(@Genome1971)がありました。
私たちがカウンセリングの現場で感じるのも同様です。
微小欠失検査は「その領域の欠失・重複の有無」を調べる検査であり、知的障害そのものを直接診断するものではないと、毎回丁寧にお伝えしています。
NIPTでわかること・わからないこと
NIPTは非常に幅広い情報を得られる検査ですが、万能ではありません。
検査を受ける前に、わかること・わからないことを正しく理解しておいてください。
| わかること | わからないこと・注意点 |
|---|---|
| 検査対象とした染色体・遺伝子領域の異数性や欠失・重複のリスク | 検査対象に含まれていない疾患すべて |
| 赤ちゃんの性別(染色体上の性) | 知的障害の有無や程度そのもの |
| 統計的なリスクの高さ(陽性スコア・陽性的中率) | 100%の確定診断(非確定的検査のため) |
たとえば21トリソミー(ダウン症候群)を対象とした報告では、感度99.9%程度・特異度99.90%程度という数値が示されています(検査会社や対象疾患により数値は異なります)。
ただしNIPTはあくまで非確定的検査です。
陽性という結果が出た場合は、羊水検査など確定的検査を受けて診断を確定させる必要があります。
NIPTと羊水検査の位置づけの違いは、NIPTの微小欠失検査でわかること・わからないことの記事でも詳しく解説しています。
日本産科婦人科学会も、出生前検査については十分な遺伝カウンセリングのもとで受けることを推奨しています(日本産科婦人科学会)。
NIPTを受けるタイミングと検査の流れ
NIPTは、なるべく早い段階で受けたいと考える方が多い検査です。
ヒロクリニックでは妊娠約6週(超音波検査で妊娠が確認できた時期)から検査を受けられます。
従来の出生前検査には妊娠11週以降でなければ受けられないものもあり、それと比べると早期に検査を開始できる点が特徴です。
採血量は小さじ2杯程度で、母体への負担はわずかです。
検体は国内の東京衛生検査所で検査するため、結果は最短2〜5日程度で判明します。
結果を早く受け取れることで、その後の検査や相談の予定を立てやすくなります。
検査を受けるベストなタイミングについてはNIPTはいつまで?推奨は15週までの記事もあわせてご確認ください。
まずは早めに情報収集を始め、パートナーと検査の要否を話し合ってください。
よくある質問
染色体・遺伝子・NIPTに関して、来院された方からよく寄せられる質問をまとめました。
Q1. 染色体と遺伝子はどう違いますか?
染色体はDNAが折りたたまれた構造体そのもの、遺伝子はそのDNAの中で実際に機能する情報部分を指します。
Q2. NIPTで遺伝子の異常はすべてわかりますか?
すべてはわかりません。検査対象として設定された染色体・遺伝子領域のリスクを調べる検査です。対象外の疾患や、環境要因が関わる疾患は判定できません。
Q3. NIPTが陽性だった場合、必ず疾患があるのですか?
いいえ。NIPTは非確定的検査のため、陽性でも実際には疾患がない場合があります。確定させるには羊水検査などの確定的検査が必要です。
Q4. キャリアスクリーニングとは何ですか?
両親が同じ潜性遺伝疾患の保因者かどうかを調べる検査です。両方が保因者だった場合、赤ちゃんに疾患が出る確率が上がるため、事前に把握する意味があります。
Q5. NIPTはいつから受けられますか?
ヒロクリニックでは妊娠約6週(超音波検査で妊娠が確認できた時期)から検査可能です。
Q6. 結果が出るまでどのくらいかかりますか?
国内の東京衛生検査所で検査するため、最短2〜5日程度で結果が判明します。
まとめ|染色体・遺伝子の基礎を知るとNIPTの結果が理解しやすくなる
染色体は遺伝情報を格納する構造体、遺伝子はその中で機能する情報単位、ゲノムは1セット分の遺伝情報全体です。
この関係を理解しておくと、NIPTの結果票に書かれた「陽性スコア」や「陽性的中率」の意味も読み解きやすくなります。
ヒロクリニックのNIPTは、基本トリソミーから全染色体異数性、微小欠失・重複、単一遺伝子疾患、キャリアスクリーニング、WES・WGSまで、幅広い項目を選んで検査できます。
まずは妊娠週数と気になる疾患を整理したうえで、検査プランを検討してください。
不安な点があれば、無料のLINE相談で助産師や遺伝カウンセラーに気軽に聞いてみてください。
監修者情報
岡 博史(おか ひろし)
医療法人社団福美会 ヒロクリニック統括院長・Labo Director。慶應義塾大学医学部卒業。日本およびアメリカの医師国家試験に合格し、日本国内に20人ほどしかいないラボディレクター資格を保有する医師のひとりとして、NIPTの検査精度・診断プロセスの管理にあたっています。
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。


