「妊娠はできるのに、なぜ……」繰り返す流産の原因は“強すぎる守る力”?【不育症と免疫の真実】【YouTube解説】

こんにちは。未来のあなたと赤ちゃんを笑顔にする、おかひろしです。

NIPT(新型出生前診断)を中心に、医学的根拠に基づいた情報を、感情論ではなく「データ」を元に分かりやすくお届けするコラムへようこそ。

妊娠検査薬で陽性が出た。あんなに嬉しかったのに、また……」

「体外受精で良い受精卵ができたはずなのに、着床しない。あるいは着床してもすぐに流れてしまう」

妊娠まではたどり着ける。けれど、その先の「赤ちゃんと対面する未来」が、指の間からすり抜けていくような感覚。

流産や死産、あるいは反復する着床不全。こうした経験は、言葉では言い表せないほどの深い悲しみと、「なぜ私だけ?」という答えのない問いを心に残します。

「私の体が悪いのかな」

「あの時、無理をしたからじゃないか」

どうか、ご自身を責めないでください。

実は、その原因の一つに、あなたの体が本来持っている**「免疫システム」**が深く関わっている可能性があるのです。

今日は、婦人科領域の専門的なテーマである「不育症」と、そこに関わる「免疫(TH1/TH2)」の働きについて、ヒロクリニック大宮駅前院の婦人科医・花澤先生との対話をもとに、最新の医学的知見を分かりやすく解説していきます。


1. 「不育症」とは何か? 定義と原因の内訳

まず、「不育症」という言葉の定義から整理していきましょう。

不妊症が「妊娠が成立しない状態」であるのに対し、不育症は**「妊娠は成立するけれど、継続ができず、流産や死産を繰り返してしまう状態」**を指します。

診断の基準と現代の考え方

医学的な定義では、「流産や死産が2回以上続いた場合」を不育症と診断することが一般的です。これを「反復流産」と呼び、3回以上続く場合を「習慣流産」と呼びます。

しかし、最近の医療現場では、回数だけで機械的に判断することは少なくなっています。

たとえ流産が1回だけであっても、あるいは体外受精での着床障害(化学流産など)が続いている場合であっても、患者様が次の妊娠に対して強い不安を感じているならば、早めに検査や治療を検討すべき──。それが現代の考え方です。

原因はどこにあるのか?(データ内訳)

「なぜ育たないのか?」

その原因は多岐に渡りますが、統計的なデータ(内訳)を知ることで、現状を客観的に捉えることができます。

  • 胎児の染色体異常(約41%)
    最も多い原因です。受精卵の段階で偶発的に染色体の数や構造に変化が起きているケースで、これは誰にでも起こりうる「自然の摂理」に近いものです。
  • 原因不明(約25%)
    次に多いのが「原因不明」です。4人に1人がここに当てはまります。しかし、この「不明」の中にこそ、今日お話しする「免疫の問題」が隠れていることが多いのです。
  • 両親の染色体異常(約10%)
    ご両親のどちらかに、均衡型転座などの染色体構造の変化があるケースです。
  • 抗リン脂質抗体症候群(約9%)
    自己免疫疾患の一つで、血液が固まりやすくなり、胎盤に血栓ができてしまうことで流産を引き起こします。
  • 内分泌異常(約6%)
    甲状腺機能の異常や糖尿病、黄体機能不全などが含まれます。
  • 子宮形態異常(約5%)
    子宮奇形や粘膜下筋腫など、赤ちゃんが育つ「部屋」の形の問題です。
  • 複合的要因(約4%)
    上記がいくつか重なっているケースです。

このように、原因は一つではありません。

しかし、検査をしても「異常なし(原因不明)」と言われてしまう約25%の方々の中に、実は**「免疫のバランス」**の問題を抱えている方が少なくないことが分かってきています。


2. 妊娠は「半同種移植」。免疫のジレンマ

ここからは、今回のメインテーマである「免疫」について深掘りしていきましょう。

私たちの体には、ウイルスや細菌などの「異物」が侵入してきた時、それを攻撃して排除しようとする免疫システムが備わっています。これがなければ、私たちはすぐに病気になってしまいます。

赤ちゃんは「異物」なのか?

妊娠という現象を免疫学的に見ると、非常に特殊で不思議なことが起きています。

お腹の中の赤ちゃん(受精卵)は、お母さんの遺伝子を半分持っていますが、残りの半分は**「お父さんの遺伝子」です。

つまり、お母さんの体から見れば、赤ちゃんは「半分は自分、半分は他人(異物)」**という存在なのです。

通常、体に異物が入れば免疫が攻撃を仕掛けます。臓器移植をした際に拒絶反応が起きるのと同じ理屈です。

しかし、妊娠においては、この拒絶反応が起きては困ります。

そこで、女性の体は妊娠すると、素晴らしい適応能力を発揮します。免疫システムに一時的にブレーキをかけ、攻撃をやめて、赤ちゃんを「受け入れる」モードに切り替えるのです。これを医学的には「免疫寛容(めんえきかんよう)」と呼びます。

攻撃役と守備役:TH1とTH2

この免疫のバランス調整の主役となるのが、ヘルパーT細胞という免疫細胞の2つのタイプ、**「TH1」「TH2」**です。

  • TH1(攻撃型・細胞性免疫)
    ウイルスや細菌、がん細胞などの「異物」を見つけて攻撃する、いわば兵隊のような役割です。炎症を引き起こすサイトカインを出して、異物を排除しようとします。
  • TH2(守備型・液性免疫)
    抗体を作って体を守る役割もありますが、妊娠においては過剰な炎症を抑え、赤ちゃんを保護する方向(抗炎症的)に働きます。

妊娠継続の鍵は「TH2優位」

通常、私たちの体の中ではTH1とTH2がバランスを取り合っています。

しかし、妊娠が成立すると、赤ちゃんを異物として攻撃しないように、体は自然と**「TH2(守る免疫)」を優位**にさせ、「TH1(攻撃する免疫)」を抑え込もうとします。

これが正常な妊娠のメカニズムです。

ところが、何らかの原因でこのシフトチェンジがうまくいかず、「TH1(攻撃)」が強いままの状態が続いてしまうことがあります。

するとどうなるでしょうか?

免疫システムが、せっかく着床した受精卵を「排除すべき異物」と誤認し、攻撃を仕掛けてしまうのです。

これが、免疫異常による不育症や着床障害の正体の一つと考えられています。


3. 検査数値の読み解き方:「高い」が意味するリスク

「免疫が原因かもしれない」と思ったら、血液検査で「TH1/TH2比」を調べることができます。

この数値が何を意味するのか、正しく理解しておきましょう。

TH1/TH2比とは?

血液中のTH1細胞とTH2細胞の比率を見ます。

簡単に言えば、「攻撃部隊(TH1)と守備部隊(TH2)のどちらが優勢か」という力関係を見る数値です。

  • 比率が高い(TH1優位)
    攻撃する力が強すぎる状態です。受精卵への攻撃性が高まっている可能性があり、着床率の低下、初期流産率の上昇、体外受精の成功率低下といったリスクが懸念されます。
  • 比率が正常〜低い(TH2優位)
    妊娠を維持しやすい環境が整っていると言えます。

「高い=絶対ダメ」ではない

ここで注意していただきたいのは、この数値が高かったからといって、「絶対に妊娠できない」というわけではないということです。

人間の体は複雑で、数値だけで全てが決まるわけではありません。

しかし、「高いリスクを抱えている可能性がある」という重要なサインであることは確かです。

このサインを見逃さず、適切なサポート(治療)を行うことで、妊娠継続の可能性を高めることができる──。検査の意義はそこにあります。


4. 諦めないための選択肢。最新の治療法

「私の免疫が赤ちゃんを攻撃していたなんて……」

そう知ってショックを受ける方もいるかもしれません。しかし、原因が分かったということは、**「打つ手がある」**ということです。

原因不明のまま暗闇を歩くよりも、ずっと希望に近い場所にいます。

現在、免疫バランスや血液凝固の問題に対しては、以下のような治療法が確立されつつあります。

① アスピリン療法(血液サラサラ作戦)

「低用量アスピリン」を服用する治療です。

血小板の働きを抑えて血液をサラサラにし、胎盤の中に微細な血栓(血の塊)ができるのを防ぎます。これにより、赤ちゃんへの血流(酸素と栄養のライン)を確保し、育ちやすい環境を整えます。

② ヘパリン療法(強力な血栓予防)

アスピリンよりも強力に血液凝固を防ぐ「ヘパリン」という薬剤を、ご自身で注射(自己注射)する治療です。

特に「抗リン脂質抗体症候群」の方や、血栓のリスクが高いと判断された場合に、アスピリンと併用して行われることが多いです。

③ 免疫抑制療法(ステロイドなど)

プレドニゾロンなどのステロイド薬を服用する治療です。

ステロイドには炎症を抑え、免疫の過剰な働きを鎮める作用があります。これによって、TH1(攻撃部隊)の暴走を抑え、受精卵が着床・継続しやすい環境を作ります。副作用を考慮し、必要な時期に短期間だけ使うことが一般的です。

④ 免疫調整薬(タクロリムスなど)

もともとは臓器移植の拒絶反応を抑えるために使われていた「タクロリムス」という薬を、不育症に応用する治療法です。

TH1細胞の働きをピンポイントで抑える効果が期待されており、特にTH1/TH2比が高い方への新たな選択肢として注目されています。専門的な管理が必要ですが、高い効果が報告されているケースも増えています。


本日のまとめ

今日は、不育症と免疫の深い関係についてお話ししました。

最後に、大切なポイントを振り返りましょう。

1. 不育症は「繰り返す悲しみ」ではない

流産や死産を繰り返す不育症。その原因は胎児の染色体だけでなく、親側の免疫や血液の問題であることも多いです。原因不明の25%の中にも、解決の糸口は隠れています。

2. 妊娠は「許容」のシステム

お母さんの体にとって、赤ちゃんは「半分異物」。本来なら攻撃してしまうところを、免疫が「守るモード(TH2優位)」に切り替わることで妊娠は継続します。この切り替えがうまくいかないと、自分の免疫が赤ちゃんを攻撃してしまうことがあります。

3. 検査でリスクを可視化する

TH1/TH2比を調べることで、ご自身の免疫バランスを知ることができます。数値が高いことは「妊娠できない」宣告ではなく、「治療が必要なサイン」です。

4. 治療法はある

アスピリン、ヘパリン、ステロイド、タクロリムスなど、免疫や血流をコントロールする治療法は進化しています。適切な介入があれば、多くの方が元気な赤ちゃんを抱く未来にたどり着いています。

最後に、あなたへ伝えたいこと

もし、あなたが流産を経験し、「私の体が赤ちゃんを拒絶したんだ」と自分を責めているとしたら、どうかその考えを手放してください。

あなたの免疫は、あなた自身の体をウイルスや病気から守ろうとして、必死に働いていただけなのです。

それは、あなたの体が健康で、生命力が強い証拠でもあります。決して「欠陥」ではありません。

ただ、妊娠という特別な時期には、その「強さ」を少しだけ調整してあげる必要があります。

医療はその調整をお手伝いすることができます。

「原因が分からない」という不安の中にいるなら、一度専門医に相談し、免疫の検査を受けてみてはいかがでしょうか。

その一歩が、未来のあなたと赤ちゃんを笑顔にするための、大きな転機になるかもしれません。

私たちは、あなたの「次の一歩」を、医学の力で全力で支えます。

医師監修 監修日:2026年1月9日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

医師監修 監修日:2026年1月9日
花澤 司 (医師/ヒロクリニック大宮駅前院 院長)

日本産科婦人科学会 産婦人科専門医/産婦人科(NIPT・出生前診断)

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

医師監修 監修日:2026年1月9日
陽川 英仁 (医師・医学博士/ヒロクリニック大阪駅前院 院長)

日本産科婦人科学会 産婦人科専門医/産婦人科(NIPT・出生前診断)

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

参考文献

  1. Miyakis S, Lockshin MD, Atsumi T, Branch DW, Brey RL, Cervera R, et al. International consensus statement on an update of the classification criteria for definite antiphospholipid syndrome (APS). J Thromb Haemost. 2006 Feb;4(2):295-306.
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  3. Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine. Evaluation and treatment of recurrent pregnancy loss: a committee opinion. Fertil Steril. 2012 Nov;98(5):1103-1111.
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  5. Seshadri S, Sunkara SK. Natural killer cells in female infertility and recurrent pregnancy loss: a systematic review and meta-analysis. Hum Reprod Update. 2014 May-Jun;20(3):429-438.