国内で急増する感染症の脅威と「先天梅毒」のリスク・対策

梅毒は近年、国内で報告数が急激に増えている性感染症で、妊娠中に治療をしないまま感染が続くと、胎盤を通じて赤ちゃんに感染し「先天梅毒」を引き起こすことがあります。一方で、梅毒は妊婦健診の血液検査で必ず調べる項目に含まれており、早期に発見できれば抗菌薬治療で母子感染を防げる病気でもあります。本記事では、国内の感染動向、症状の経過、妊婦健診での検査の仕組み、治療法までを、国立健康危機管理研究機構(旧国立感染症研究所)や厚生労働省、日本産婦人科医会など公的機関・学会の情報にもとづいて解説します。

この記事でわかること

  • 日本国内の梅毒感染者数の推移と、妊娠適齢期の女性に感染が広がっている実態
  • 梅毒の症状が「消えても治ったわけではない」進行の仕組み
  • 先天梅毒が赤ちゃんに及ぼす影響と、母子感染が起こる経路
  • 妊婦健診で梅毒検査が必ず行われる理由
  • ペニシリンによる治療の実際と、治療開始後に起こりうる反応
  • パートナーと一緒に取り組める予防策

梅毒とは?性的接触で感染し、放置すると進行する細菌感染症

梅毒は「梅毒トレポネーマ」という細菌による感染症で、主に性的接触によってうつり、治療をしないまま放置すると年単位で全身に影響が及ぶことがあります。

感染経路は、性器・肛門・口腔などの粘膜や皮膚の小さな傷を通じた直接接触がほとんどです。感染部位に直接触れることで菌が体内に入り、感染が成立します。妊娠中の女性から胎児への感染(母子感染)も、代表的な感染経路のひとつです。

私たちヒロクリニックの外来でも、妊娠をきっかけに「梅毒という病名は知っているけれど、詳しい症状や治療法までは知らなかった」という声を聞くことは少なくありません。感染症としての基本的な性質を知っておくことが、正しい対応への第一歩になります。

【最新データ】日本の梅毒報告数はこの10年でどう変化したか

国内の梅毒報告数は2014年ごろから増加に転じ、2023年には感染症法での届出開始以降もっとも多い水準に達しました。

厚生労働省・国立健康危機管理研究機構(旧国立感染症研究所)の感染症発生動向調査によると、年間報告数は次のように推移しています。

  • 2021年:7,978人
  • 2022年:13,221人
  • 2023年:15,055人(統計開始以降で最多)
  • 2024年:14,663人(暫定値。高水準が継続)

わずか3年ほどの間に報告数が倍増した計算になります。過去は年間数千人規模の時期が長く続いていたため、このペースの増加は医療機関の間でも注視されています。

出典:国立健康危機管理研究機構「日本の梅毒症例の動向について」

感染が集中している年代と地域の傾向

女性の梅毒報告数は20代前半で最も多く、これは妊娠・出産を考える年代と重なります。

男性の報告数は20代から50代前半まで、幅広い年代で一定の水準が続く傾向があります。一方、女性の報告数は10代後半から急激に増え、20代前半でピークを迎えたあと、30代にかけて減少していく傾向が知られています。感染のピークは20代前半の女性。まさに妊娠・出産を意識し始める年代です。

地域別に見ると、報告数は東京都・大阪府など都市部に多い傾向があります。人口の多さに比例する側面もあり、特定の地域だけの問題と捉えるより、全国どこでも起こりうる感染症として理解しておくほうが実情に即しています。

女性の感染が多い年代が妊娠・出産の時期と重なっているからこそ、次に説明する妊婦健診でのスクリーニング検査が大切な意味を持ちます。

梅毒の症状はどのように進行するのか(消えても治ったわけではない)

梅毒は感染からの経過時間によって症状が変化し、一時的に症状が消える時期があるため「治った」と誤解されやすい病気です。

治療をしなければ、菌は体内に残ったまま進行を続けます。段階ごとの特徴を確認しておきましょう。

第1期:痛みを伴わない、しこりや潰瘍

感染からおよそ3週間後、菌が侵入した部位に硬いしこり(初期硬結)や、浅い潰瘍(硬性下疳)ができることがあります。痛みをほとんど伴わないのが特徴。俗に言う、痛みのない静かな警告サインです。治療をしなくても、数週間で自然に見えなくなります。

第2期:全身の発疹(バラ疹)

第1期の症状が消えてから数ヶ月ほどで、手のひらや足の裏を含む全身に、淡い赤色の発疹(バラ疹)が出ることがあります。この発疹も、治療をしなければ自然に消えていきます。

潜伏期・後期:自覚症状のない期間が長く続く

第2期の症状が消えたあとは、目立った症状のない「潜伏梅毒」の期間に入ります。治療をせず長期間放置した場合、まれに数年から数十年後に、心臓や血管、神経系に影響が及ぶ「晩期顕性梅毒」に進むことがあります。現在は早期発見・早期治療が一般的なため、この段階まで進行するケースは多くありません。

症状が消えたことは、菌がいなくなったことを意味しません。症状の有無にかかわらず、感染が疑われる場合は医療機関での検査が唯一の確認方法です。

妊娠中の感染が引き起こす「先天梅毒」母子感染のリスク

妊娠中に治療を受けないまま梅毒に感染していると、菌が胎盤を通過して赤ちゃんに感染し、「先天梅毒」につながることがあります。

大人の場合、梅毒は抗菌薬による治療で比較的容易に治すことができます。しかし妊娠中に未治療のまま経過すると、梅毒トレポネーマが胎盤を通過し、胎児に直接感染(胎内感染)することがあります。

国立健康危機管理研究機構の報告によると、国内の先天梅毒は2013年以前は年間10例以下で推移していましたが、2014年ごろから増加に転じ、2019年には23例、近年は20例台で高止まりの状態が続いています。また2019年以降は、梅毒に感染した状態で妊娠していた女性(梅毒合併妊婦)が毎年200名を超えて報告されています。

出典:国立健康危機管理研究機構「梅毒合併妊婦に対する治療と先天梅毒の現状」

先天梅毒の赤ちゃんに見られることがある所見として、代表的なものを紹介します。

・ハッチンソン歯 歯の形成期に菌の影響を受け、永久歯の先端が半月状に欠けたり、変形したりすることがあります。

・鞍鼻(あんび) 鼻の軟骨や骨の組織に影響が及び、鼻の根元がへこんだ形に変形することがあります。

・難聴や発達への影響 内耳や神経系に影響が及ぶことで、難聴や発達の遅れにつながることがあります。早産や低出生体重、まれに胎児死亡に至ることもあると報告されています。

これらの所見は、妊娠中に梅毒治療を受けなかった場合に起こりうるものであり、すべての感染例で必ず生じるわけではありません。次に説明する妊婦健診での早期発見と治療が、こうしたリスクを大きく減らす鍵になります。

妊婦健診での血液検査と先天梅毒の予防をイメージしたイラスト

妊婦健診で梅毒検査を必ず受ける理由

日本の妊婦健診では、妊娠初期の血液検査に梅毒の検査項目が組み込まれており、症状がなくても感染の有無を確認できる体制が整っています。

厚生労働省が示す「妊婦に対する健康診査についての望ましい基準」では、妊娠初期の血液検査項目のひとつとして梅毒検査が挙げられています。母子健康手帳の交付を受けたあと、最初の妊婦健診で行われる採血の中に、梅毒検査が含まれているのが一般的です。

この検査は多くの自治体で妊婦健診の公費助成の対象になっています。自己負担の有無や助成の範囲は自治体によって異なるため、お住まいの市区町村や通院先の医療機関に確認しておくと安心です。

陽性反応が出た場合でも、妊娠初期から中期の段階で抗菌薬による治療を開始できれば、母体の菌を減らし、赤ちゃんへの感染を防げる可能性が高まります。定期的に妊婦健診を受けること自体が、先天梅毒に対するもっとも確実な予防策のひとつです。

出典:厚生労働省「梅毒」

妊婦健診全体のスケジュールや検査項目については、妊婦健診のスケジュールと内容を徹底解説で詳しくまとめています。

妊婦健診を受けていない場合に生じるリスク

妊婦健診を一度も受けないまま出産を迎えると、梅毒を含む感染症のスクリーニングの機会そのものを逃してしまいます。

経済的な事情、心身の負担、妊娠そのものへの気づきの遅れなど、健診を受けられない背景は人によってさまざまです。しかし検査を受けていなければ、母体が梅毒に感染していても気づく機会がなく、先天梅毒のリスクが高いまま出産に至ってしまいます。

もし何らかの事情で健診を受けられずにいる場合は、一人で抱え込まず、お住まいの自治体の母子保健窓口や医療機関にまず相談してください。多くの自治体では、費用面や状況に応じた相談窓口を用意しています。早い段階で相談することが、母体と赤ちゃんの双方を守ることにつながります。

治療は抗菌薬(ペニシリン)ー治療そのものは難しくありません

梅毒は血液検査で発見でき、ペニシリン系の抗菌薬による治療で完治が期待できる病気です。

治療には、経口のペニシリン製剤を4週間前後にわたって服用する方法と、ベンジルペニシリンベンザチンという注射薬を筋肉注射する方法があります。注射薬は2022年1月から日本国内でも選択できるようになりました。世界保健機関(WHO)や米国疾病対策センター(CDC)のガイドラインでも、先天梅毒を防ぐための母体治療として広く推奨されている方法です。

国内の調査では、ベンジルペニシリンベンザチンの筋肉注射によって母子感染を98.2%の確率で防げたとする報告もあります。妊娠中期までに治療を開始できれば、赤ちゃんへの感染リスクを大きく下げられる可能性があります。

出典:日本産婦人科医会「梅毒感染妊婦に対する治療法に関する提言」

妊娠中の疑問をLINEで無料相談する

治療開始後に起こることがある「ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応」

治療を始めた直後に発熱などの反応が出ることがありますが、これは薬が効いているサインであり、医師の管理のもとで対応できるものです。

抗菌薬を投与すると、体内の梅毒トレポネーマが短時間で大量に死滅します。その際に菌の成分が血液中に放出され、免疫が反応することで、投与から数時間以内に発熱や悪寒、頭痛、筋肉痛といった症状が一時的に現れることがあります。これを「ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応」と呼びます。

早期梅毒の治療を受けた患者のおよそ2割程度に、この反応が見られたとする研究報告があります。症状は多くの場合、24時間以内に落ち着きます。

妊婦さんの場合、この反応に伴って子宮収縮や胎児心拍の一時的な変化、まれに早産につながる可能性があるとされています。そのため日本性感染症学会のガイドラインでは、妊婦がベンジルペニシリンベンザチンの注射を受ける際、24時間程度の入院による経過観察を勧める意見が示されています。事前にこの反応を知っておくことで、いざというときにも落ち着いて対応できます。

NIPT(新型出生前診断)では先天梅毒はわかりません

NIPTは母体血液中のDNA断片を用いて胎児の染色体の変化を調べる検査であり、梅毒のような感染症の有無を調べる検査ではありません。

NIPTで「陰性」という結果が出たとしても、それは染色体の変化についての結果であり、先天梅毒の有無を示すものではありません。先天梅毒の確認は、妊婦健診での梅毒スクリーニング検査によって行われます。NIPTの検査の仕組みについては、NIPT(新型出生前診断)はどんな手順で検査するの?で詳しく解説しています。

染色体に由来するリスクと、感染症に由来するリスクは、それぞれ別の検査で確認するものだと理解しておくことが大切です。妊娠中にかかりやすい感染症全般については妊婦がかかると危険な感染症と予防策、母子感染する寄生虫感染症についてはトキソプラズマ症の解説記事でも取り上げていますので、あわせてご覧ください。

感染を防ぐためにできること

新しいパートナーとの関係を始める時や妊娠を考えるタイミングで、お互いに性感染症の検査を受けておくことが、梅毒を防ぐもっとも確実な方法のひとつです。

梅毒は特定の職業や生活スタイルに限った病気ではなく、性的接触がある人であれば誰にでも感染しうる病気です。「自分には関係がない」と思い込むより、一般的な性感染症のひとつとして捉え、偏見なく検査や治療に向き合う姿勢が広がることが、感染拡大を抑える力になります。

血液検査だけで感染の有無を調べられるため、身体的な負担は大きくありません。コンドームの使用は感染リスクを下げますが、粘膜の直接接触があれば感染しうるため、完全に防げるわけではない点にも留意してください。パートナーと一緒に検査を受け、結果を共有し合うこと。これから家族になるお二人にとって、もっとも実践的な対策のひとつです。

実際の診療でも、「症状がないので検査は不要ではないか」と尋ねられることがあります。しかし梅毒は無症状の期間が長く続く病気だからこそ、症状の有無にかかわらず検査を受けることに意味があります。

まとめ:早期発見と治療で、先天梅毒はほぼ防げます

梅毒は国内で報告数が増加している性感染症であり、女性の感染は妊娠・出産を考える年代に集中しています。症状は段階を経て変化し、一時的に消えることがあるため見過ごされやすい一方、妊娠中に未治療のまま経過すると先天梅毒につながることがあります。

ただし、妊婦健診の血液検査で必ず調べられる項目であり、早期に発見できれば抗菌薬による治療で母子感染を防げる病気でもあります。妊婦健診を定期的に受けること、パートナーと一緒に検査を受けること。この2つを実践するだけで、先天梅毒のリスクは大きく下げられます。梅毒は、正しい知識と検査があれば十分に防げる感染症。気になる症状や不安な点があれば、一人で抱え込まず、妊婦健診の際に主治医へ相談してください。

よくある質問(FAQ)

Q. 梅毒はどんな症状がありますか?

感染後およそ3週間で、感染部位に痛みのない硬いしこりや潰瘍ができる「第1期」、その後数ヶ月で全身に発疹(バラ疹)が出る「第2期」を経て、目立った症状のない潜伏期に入ります。いずれの症状も治療をしなくても一時的に消えるため、治ったと誤解しやすい点に注意が必要です。

Q. 妊娠中の梅毒検査はいつ受けますか?費用はかかりますか?

母子健康手帳の交付を受けたあとの最初の妊婦健診で、血液検査の一項目として実施されるのが一般的です。多くの自治体で妊婦健診の公費助成の対象になっていますが、助成範囲は自治体によって異なるため、通院先の医療機関やお住まいの市区町村に確認してください。

Q. 症状がなければ検査を受けなくても大丈夫ですか?

大丈夫とはいえません。梅毒は症状が一時的に消える時期があり、無症状のまま感染が進行することも珍しくありません。妊婦健診の血液検査は症状の有無にかかわらず全員に実施されるため、指定された時期の受診を欠かさないようにしてください。

Q. 治療にはどのくらいの期間がかかりますか?

経口のペニシリン製剤であればおよそ4週間前後の服用が目安です。ベンジルペニシリンベンザチンの筋肉注射であれば、病期に応じて1回から数回の投与で完了する場合があります。具体的な治療期間や方法は、感染の時期や病期によって主治医が判断します。

Q. パートナーも検査を受ける必要がありますか?

必要です。梅毒は性的接触によってうつるため、パートナーが感染していれば再感染や感染の拡大につながります。妊婦さん本人だけでなく、パートナーも一緒に検査を受け、必要であれば同時に治療を受けることが望まれます。

Q. 先天梅毒は治療できますか?

生まれた赤ちゃんに先天梅毒の所見が確認された場合も、ペニシリン系抗菌薬による治療が行われます。ただし、すでに生じた身体的な影響が治療によってすべて元に戻るとは限りません。だからこそ、妊娠中の母体側での早期発見と治療が最も重要です。

ヒロクリニックNIPTの予約はこちら
医師監修 監修日:2026年5月28日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。