「サウナが趣味だけど、妊活中はやめたほうがいいのだろうか」。外来でパートナーの妊活に付き添う男性から、こうした相談を受けることが度々あります。
結論からお伝えします。サウナや長時間の熱い入浴は精巣の温度を一時的に上げるため、精子の数や運動率を下げる可能性があると学会・論文の双方で指摘されています。ただし多くの研究で、サウナをやめれば数か月かけて精液所見が回復する傾向も同時に報告されています。ヒロクリニックNIPT統括院長の岡博史の視点から、データに基づいて整理します。
この記事でわかること
なお、妊娠中の女性のサウナ・入浴に関する注意点は妊娠中のサウナはNG?高温リスクと正しい入浴法で解説しています。本記事は妊活中の男性側、とくに精子の質にしぼって整理していますので、パートナーとあわせてご確認ください。
精巣は体温より2~3度ほど低い環境でなければ、正常に精子を作れないという特徴があります。体の中心部から離れた陰嚢という「袋」に収まっているのは、この温度差を保つためです。
精子は精巣の中にある精細管という細い管で、約2~3か月かけて少しずつ作られます。この間ずっと高い温度にさらされ続けると、精子形成の過程そのものが乱れやすくなるという仕組みです。
サウナや熱い湯船は、この「精巣を涼しく保つ仕組み」を一時的に上回るほど陰嚢の温度を上げてしまいます。次の章で、実際にどの程度の変化が報告されているのかを見ていきましょう。
健常な男性を対象にした海外の研究では、継続的なサウナ利用によって精子の数や運動率が有意に低下したと報告されています。ここで紹介するのは、2013年に医学誌Human Reproductionに掲載されたGarollaらの研究です。
この研究では、精液所見が正常な健常男性10名を対象に、80~90度のサウナに週2回・1回15分入る生活を3か月間続けてもらいました。サウナ前の平均陰嚢温度は34.5度、サウナ直後は37.5度まで上昇したことが確認されています。
対象がわずか10名の小規模研究である点には注意が必要です。ただし、サウナの前後で陰嚢温度が明確に上がることは、複数の研究で共通して確認されている事実です。論文の詳細(PubMed)もあわせてご確認ください。
3か月間のサウナ利用後、精子の数と運動率の低下に加えて、DNA構造が正常な精子の割合の減少、精子のミトコンドリア(エネルギーを作る部分)機能の低下も確認されました。数値だけでなく、精子の質そのものに関わる変化です。
一方で、精液所見がもともと悪い男性不妊の患者さんを対象にした同様のデータは、現時点では確認されていません。健常男性での結果を、そのままあらゆるケースに当てはめて過度に不安がる必要はありません。
WHOの調査では、不妊に悩むカップルの約半数に男性側の要因が関わるとされ、その多くは精子をうまく作れない「造精機能障害」に分類されます。サウナによる高温環境は、この造精機能障害を助長しうる生活習慣要因の一つとして扱われています。詳しい内訳はこども家庭庁「男性不妊について」にまとめられています。
| 原因の分類 | 概要 |
|---|---|
| 造精機能障害 | 精子をうまく作れない状態。男性不妊全体の約8割を占めるとされる。精索静脈瘤(精巣周囲の静脈の拡張)が原因の一つ |
| 性機能障害 | 勃起や射精に問題があり、性行為自体がうまくいかないケース |
| 精路通過障害 | 精子は作られているが、通り道のどこかが詰まっていて射出されないケース |
日本生殖医学会の生殖医療Q&Aでも、「サウナや長時間の入浴、ひざ上でのコンピューター使用等、精巣を長時間の高温環境におく可能性がある因子はできるだけ避けるべきです」と明記されています。日本泌尿器科学会編・日本生殖医学会後援の男性不妊症診療ガイドライン2024年版でも、生活習慣の見直しは治療の基本として位置づけられています。
不妊症の原因は男女どちらか一方だけにあるとは限りません。全体像は不妊症の原因で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
前述のGarollaらの研究では、サウナ利用を中止した後、精子濃度と総精子数が回復に向かう経過も確認されています。「一度悪くなったら終わり」ではなく、生活習慣の見直しが結果につながりうるという点は、妊活中の男性にとって前向きな材料です。
| 時点 | 精液所見の傾向 |
|---|---|
| サウナ利用中(3か月間) | 精子数・運動率が低下。DNA正常精子・ミトコンドリア機能も低下 |
| 中止から3か月後 | 精子濃度・総精子数が回復傾向を示す |
| 中止から6か月後 | ほぼサウナ利用前の水準まで回復 |
精子は精巣の中で約2~3か月かけて作られるため、生活習慣を変えてもすぐには結果が出ません。数か月単位で様子を見る心づもりが必要です。
精巣への負担は、サウナだけでなく日常のさまざまな習慣からも積み重なります。以下の一覧で、心当たりのある行動がないか確認してみてください。
| 習慣 | 精巣への影響が指摘される理由 |
|---|---|
| サウナ・岩盤浴 | 高温環境に長時間さらされ、陰嚢温度が明確に上昇する |
| 長時間の熱い入浴 | サウナと同様に深部体温・陰嚢温度を押し上げる |
| ノートパソコンを膝の上で長時間使用 | 本体の熱と姿勢による締め付けが重なりやすい |
| 締め付けの強い下着・自転車の長時間乗車 | 陰嚢周辺の血流や温度環境に影響しうるとされる |
これらすべてを完全に断つ必要はありません。頻度や時間を「少し控えめにする」という意識が大切です。
妊活中は、サウナや長風呂の頻度・時間を見直すだけでも精巣への負担を減らせます。特別な道具や費用は必要ありません。
毎日の習慣になっている場合は、まず週の頻度を減らすことから始めてみてください。1回あたりの時間を短くするだけでも、陰嚢が高温にさらされる時間は減らせます。
ノートパソコンを膝の上で使う時間が長い方は、机の上に置く、クッションを挟むといった工夫を試してみてください。長時間の運転や自転車移動も、こまめに休憩を挟むと負担を分散できます。
精子は約2~3か月かけて作られるため、生活習慣を変えても翌週すぐに数値が変わるわけではありません。禁煙・節酒・睡眠・栄養バランスの見直しとあわせて、腰を据えて取り組んでください。生活習慣全般は男性の妊活マニュアルで詳しく解説しています。
生活習慣を見直しても数値が改善しない、あるいは妊活を始めて1年以上たっても妊娠に至らない場合は、泌尿器科や生殖医療専門の医療機関への相談を検討してください。
精液検査は自己判断が難しく、1回の結果だけで一喜一憂しないことも大切です。値のばらつきが大きいため、複数回の検査で傾向を見る運用が一般的です。
診察の場では、奥さまだけが熱心に検査を受け、ご主人は様子見という組み合わせを私自身よく見かけます。原因のありかを最初から片側に決めつけないことが、遠回りを避ける近道です。日本泌尿器科学会「パートナーがなかなか妊娠しない」にも、まず精液検査を受けてみることの大切さが解説されています。生活習慣の見直しでも改善が見られない場合、体外受精や顕微授精へのステップアップも選択肢の一つになりますので、体外受精の基礎知識も参考にしてください。
サウナと男性不妊、精子の質について、よく寄せられる質問にお答えします。
必ず不妊になるわけではありません。継続的なサウナ利用で精子の数や運動率が一時的に低下する可能性が報告されていますが、影響の大きさには個人差があります。
サウナとホルモンの関係を調べた研究はありますが、妊活・精子の質という観点では、学会も論文もむしろ高温環境を避けることを推奨しています。サウナが妊活に有利に働くという医学的な根拠は、現時点ではありません。
研究データでは、サウナ利用を中止してから3か月後に精子濃度・総精子数が回復傾向を示し、6か月後にはほぼ利用前の水準に戻ったと報告されています。個人差はありますが、可逆的な変化と考えられています。
完全に断つ必要はありませんが、頻度と1回あたりの時間を控えめにすることを検討してください。とくに妊活を急いでいる時期は、数か月単位で影響が出ることを踏まえて調整するとよいでしょう。
長時間の熱い入浴、ノートパソコンを膝の上で使う習慣、締め付けの強い下着、長時間の自転車移動などが挙げられます。ひとつずつ見直すだけでも負担を減らせます。
泌尿器科や生殖医療専門のクリニックに相談してください。原因によって内科的治療や外科的治療など対応が分かれるため、専門の医師による評価が必要です。
今日は、サウナと男性不妊・精子の質の関係についてお話ししました。最後に、大切なポイントを振り返ります。
「サウナが好きだから」と目をそらさず、まずは頻度と時間を少し見直すところから始めてみてください。妊活は女性だけの課題ではなく、パートナーである男性が「半分は自分ごと」として向き合うことが結果につながります。
気になることがあれば一人で抱え込まず、パートナーや医療機関に相談してください。お二人の妊活を、心から応援しています。
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
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