尖圭コンジローマは主にHPV6型・11型という「低リスク型」のヒトパピローマウイルスによる性感染症で、妊娠中は免疫やホルモンの変化によって症状が急に目立つことがありますが、胎盤を通じて赤ちゃんに直接感染するわけではありません。出産時に赤ちゃんが産道でウイルスに触れることで、まれに「産道感染」が起こる可能性があります。本記事では、国立健康危機管理研究機構(旧国立感染症研究所)や厚生労働省、国立がん研究センターなど公的機関の情報にもとづき、妊娠中の尖圭コンジローマが赤ちゃんに与える影響、分娩方法の考え方、治療法、予防の柱となるHPVワクチンについて解説します。
この記事でわかること
尖圭コンジローマは、ヒトパピローマウイルス(HPV)のうち主に6型・11型という「低リスク型」の感染によって起こる性感染症です。
HPVには100種類以上の型があります。子宮頸がんの原因になりやすい「高リスク型」(16型・18型など)と、がん化のリスクが低い「低リスク型」に大別され、尖圭コンジローマの多くは低リスク型のHPV6型・11型の感染によるものです。
感染経路は主に性的接触です。ウイルスは性器周囲の皮膚や粘膜に広く存在するため、コンドームを使用していても、接触した部位から感染することがあります。
感染から発症までの潜伏期間は、数週間から3ヶ月程度が目安とされています。ただし個人差があり、感染してもウイルスが自然に排除され、症状が出ないまま経過する人も少なくありません。
私たちヒロクリニックの外来でも、妊娠をきっかけに「性器のイボに初めて気づいた」というご相談をいただくことがあります。もともと無症状だった感染が、妊娠を機に表面化するケースは珍しくありません。
妊娠中は免疫の働き方やホルモンバランスが変化するため、それまで潜んでいたHPV感染が急に活動を始め、イボが増えたり大きくなったりすることがあります。
典型的な症状は、外陰部・腟の入口や内部・会陰部・肛門周囲にできる、鶏のトサカやカリフラワーのような形のイボです。男性の場合は陰茎・亀頭・包皮・陰嚢・肛門周囲に出やすいとされています。

妊娠中はこのイボが短期間で急速に大きくなったり、数が増えて広がったりすることがあります。摩擦で出血しやすくなり、日常生活に支障が出るケースも見られます。
放置すれば病変が広がりやすくなる一方、国立健康危機管理研究機構の情報では、感染しても20~30%程度は3ヶ月以内に自然消退するとされています。ただし、すべてのケースで自然に治るとは限りません。症状に気づいたら自己判断で放置せず、早めに産婦人科を受診してください。
尖圭コンジローマそのものが胎盤を通じて赤ちゃんに感染することはありません。ただし、出産時に産道でウイルスに触れることで「産道感染」が起こる可能性はあります。
産道感染によって赤ちゃんの喉や声帯にイボができることがあり、これを「若年性再発性呼吸器乳頭腫症(JORRP)」と呼びます。発症すると、声のかすれや呼吸のしにくさにつながることがあります。
| 感染経路 | 起こるかどうか | 赤ちゃんへの影響 |
|---|---|---|
| 胎盤を通じた感染 | 起こらない | 該当なし |
| 産道感染(出産時) | まれに起こりうる | 若年性再発性呼吸器乳頭腫症(JORRP)。きわめてまれ |
JORRPの発症頻度は研究によって幅がありますが、母親に尖圭コンジローマがあり経腟分娩を選んだ場合でも、実際にJORRPを発症する例はきわめてまれとされ、大多数の赤ちゃんには影響が出ません。
発症のピークは1~4歳ごろとされます。良性の腫瘍ではあるものの、できる場所や大きさによっては手術を繰り返し必要とする場合があり、まれではあっても知っておく価値のある情報です。
妊娠中の性感染症全般については妊婦がかかると危険な感染症と予防策でも取り上げています。あわせてご確認ください。
帝王切開にしても赤ちゃんへの感染を完全に防げるわけではないため、現在は一律に帝王切開を選ぶのではなく、病変の状態に応じて個別に判断するのが一般的な考え方です。
以前は「帝王切開のほうが安全」と考えられていた時期もありました。しかし近年の報告では、帝王切開をしても産道感染を完全には防げないことが分かってきています。
そのため現在は、次のような状況で帝王切開が検討されます。
逆に、イボが小さく数も少ない場合は、経腟分娩が選ばれることが多いとされています。分娩方法は自己判断できるものではありません。妊婦健診の経過を踏まえた、主治医との相談が第一歩です。
妊娠中は、一般的に使われる外用の抗ウイルス薬の多くが胎児への安全性が確立されていないため、レーザーや外科的切除など物理的にイボを取り除く方法が選ばれやすくなります。
尖圭コンジローマは良性の腫瘍で、命に関わることはまずありません。そのため治療の目的は、症状の改善と分娩への影響を減らすことにあります。妊娠中に発症した場合は、分娩までに治療を終えておくことが望ましいとされています。
| 治療法 | 方法 | 妊娠中の位置づけ |
|---|---|---|
| 焼灼療法 | レーザーや電気メスでイボを焼灼 | 比較的安全に行える方法として選ばれやすい |
| 外科的切除 | ハサミやメスで切除 | 局所麻酔で対応でき、大きな病変にも有効 |
| 凍結療法 | 液体窒素で凍結 | 物理的な除去法の選択肢のひとつ |
| 外用薬(イミキモドなど) | 自身の免疫を利用してウイルスを排除 | 胎児への安全性が確立されておらず、妊娠中は使用できない場合がある |
尖圭コンジローマの原因となるHPVは体内に潜伏するため、病変を取り除いても再び現れることがあります。特に妊娠中は免疫の働きが変化しやすく、治療後しばらくして症状が戻るケースも珍しくありません。治療は「完治」よりも「症状を抑えること」が目的だと理解しておくと、過度に不安にならずに向き合えます。
妊娠中に薬を使う際の考え方全般については妊娠中に薬は飲める?病気と治療の基礎知識でも解説しています。
尖圭コンジローマは治療後も再発することがあり、パートナーが感染していれば再び症状が現れる「ピンポン感染」につながるため、パートナーと一緒に検査を受けることが再発予防の土台になります。
男性は女性に比べて症状が出にくく、皮膚の奥や尿道の中など見えにくい部位に病変ができると、本人が気づかないまま感染を広げてしまうことがあります。症状がなくても、泌尿器科や皮膚科で検査を受けてください。

喫煙は免疫の働きを下げるため、再発のしやすさに関わるとの報告もあります。妊娠中の禁煙はもともと推奨されているところ、パートナーの禁煙も再発予防の一歩です。
「性感染症にかかったのは自分のせいではないか」と感じてしまう方もいらっしゃいます。しかしHPVは非常にありふれたウイルスで、多くの人が生涯に一度は感染するとされています。感染したこと自体を責める必要はありません。むしろ大切なのは、早めの受診と正しい知識です。
現在使われている9価HPVワクチン(シルガード9)は、尖圭コンジローマの原因となるHPV6型・11型もカバーしており、子宮頸がんだけでなく尖圭コンジローマの予防にも役立ちます。
日本では、小学6年生から高校1年生相当の女性を対象に、HPVワクチンの定期接種(公費)が行われています。あわせて、1997~2008年度生まれの女性を対象にした「キャッチアップ接種」も実施されてきました。
ただし、公費によるキャッチアップ接種は2026年3月末で終了しています。対象年齢の期間を過ぎている方が接種を希望する場合は、自己負担での接種になります。ご自身の接種歴の確認は、お住まいの自治体や医療機関に問い合わせてください。
一方、男性へのHPVワクチンは、現時点では定期接種ではなく任意接種で、費用は自己負担が基本です。自治体によっては独自に費用の一部を助成する動きも出てきています。
| 対象 | 接種区分 | 費用の目安 | |
|---|---|---|---|
| 女性(定期接種) | 小6~高1相当 | 定期接種(公費) | 原則自己負担なし |
| 女性(キャッチアップ) | 1997~2008年度生まれ | 2026年3月末で公費終了 | 期間内は原則自己負担なし |
| 男性 | 年齢問わず希望者 | 任意接種(自治体により助成あり) | 4価5~6万円/9価8~9万円が目安 |
男女ともにワクチンを受けることで、社会全体としての感染拡大を抑えられるとの報告もあります。パートナーの接種状況を含め、妊娠を考えるタイミングで一度話し合っておくといいでしょう。
子宮頸がんとHPVの関係については妊娠中に子宮頸がんが見つかったらどうすればいいの?でも詳しく解説しています。
性器周辺のイボや違和感に気づいたら、自己判断で様子を見るのではなく、早めに産婦人科(妊娠中の場合)や泌尿器科・皮膚科を受診してください。
妊娠中は特に、放置している間に病変が急速に広がる場合があります。分娩方法の判断にも関わるため、早期の受診が母子双方にとって安心につながります。
実際の診療でも、「性感染症と分かると気まずい」と受診をためらう方に出会うことがあります。しかしHPVは多くの人が経験しうるありふれた感染症です。偏見を持たず、体の変化として向き合う姿勢が、早期治療への近道でしょう。
妊娠中に病気が見つかったときの一般的な対処の流れは妊娠中にかかりやすい病気の症状と早期対応法でも紹介しています。
尖圭コンジローマは、HPV6型・11型を主な原因とする性感染症で、妊娠中は免疫やホルモンの変化によって症状が表面化しやすくなります。胎盤を通じた感染はありませんが、出産時の産道感染によって、赤ちゃんがまれに若年性再発性呼吸器乳頭腫症を発症することがあります。
分娩方法は病変の状態に応じて個別に判断され、治療は妊娠中でも焼灼療法や外科的切除といった方法で対応できます。パートナーとの検査、そしてHPVワクチンによる予防。この2つを意識しておくことが、安心して出産を迎えるための土台になります。気になる症状があれば、一人で抱え込まず、早めに主治医へ相談してください。
20~30%程度は3ヶ月以内に自然に消退するとの報告がありますが、すべてのケースで自然に治るとは限りません。放置すると病変が広がることもあるため、気づいた時点で産婦人科や泌尿器科に相談してください。
妊娠中の治療で選ばれる焼灼療法や外科的切除は、局所麻酔で行えるため、母体や胎児への影響は最小限に抑えられるとされています。使用できる薬剤には制限があるため、治療方針は主治医と相談したうえで決めてください。
現在は帝王切開が一律に推奨されているわけではなく、病変の大きさや位置、出血のリスクなどを踏まえて個別に判断されます。自己判断はせず、妊婦健診の経過をもとに主治医と相談してください。
必要です。男性は症状が出にくく、気づかないまま感染を広げてしまうことがあります。症状の有無にかかわらず、泌尿器科や皮膚科で検査を受けてください。
9価ワクチン(シルガード9)はHPV6型・11型もカバーしており高い予防効果が期待できますが、100%防げるわけではありません。接種後もパートナーとの検査など複数の対策を組み合わせることが大切です。
受けられます。ただし現時点では定期接種ではなく任意接種のため、費用は自己負担が基本です。4価ワクチンで5~6万円程度、9価ワクチンで8~9万円程度が目安ですが、自治体によっては助成制度もあるため、お住まいの自治体に確認してください。
出典:国立健康危機管理研究機構(旧国立感染症研究所)「尖圭コンジローマ(詳細版)」 / 厚生労働省「9価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン(シルガード9)について」 / 厚生労働省「HPVワクチンのキャッチアップ接種について」 / 国立がん研究センター「子宮頸がんとその他のヒトパピローマウイルス(HPV)関連がんの予防」 / 東京都保健医療局「HPVワクチンの男性への接種について」
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
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