疑似発達障害とは|赤ちゃんとの関わり方とコミュニケーション

「疑似発達障害」は正式な医学的診断名ではなく、育児情報の中で使われている俗称です。赤ちゃんの発達の現れ方には個人差があり、指差しが少ない、視線が合いにくいといった様子だけで「うちの子は発達障害かもしれない」「関わりが足りていないせいだ」と決めつける必要はありません。本記事では、「疑似発達障害」という言葉がどのような文脈で使われているのか、医学的にはどう位置づけられるのかを公的な情報にもとづいて整理したうえで、忙しい毎日でも実践しやすい赤ちゃんとの関わり方と、心配なときの相談先をご紹介します。

この記事でわかること

  • 「疑似発達障害」「サイレントベビー」が正式な医学用語ではない理由
  • 医学的に診断される「反応性アタッチメント症」との違いと、その診断のハードル
  • 赤ちゃんの発達には個人差があり、1つの様子だけで判断できない理由
  • 忙しい毎日でも実践しやすい、応答的な関わり方(サーブアンドリターン)の具体例
  • 関わりに不安を感じたときの考え方と、心配なときの相談窓口

「疑似発達障害」とは何か、まず言葉の定義を整理します

「疑似発達障害」は医学の診断基準(DSMやICD)に載っている正式な病名ではなく、育児メディアや育児書の中で使われてきた俗称です。「サイレントベビー」も同様に、学術的に確立した診断名ではありません。これらの言葉は、コミュニケーション不足が赤ちゃんの様子に影響しうることを分かりやすく伝えるために使われてきた表現ですが、医師が下す診断名ではない点をまず押さえておく必要があります。

一方、医学的に定義されている近い概念として「反応性アタッチメント症(反応性愛着障害)」があります。一般社団法人小児心身医学会の解説によれば、この障害は子ども虐待やネグレクトなど、養育者からの安楽・愛情に対する基本的な欲求が持続的に満たされない状況を背景に生じるとされ、DSMやICDの診断基準に沿って医師が診断するものです。同世代との関わりの乏しさや、養育者に対する接近と回避が入り混じった矛盾した反応などが特徴とされています。

項目反応性アタッチメント症(医学的診断)俗に言う「疑似発達障害」「サイレントベビー」
位置づけDSM・ICDに基づく医師の診断名育児メディアで使われる俗称
背景として想定される状況虐待やネグレクトなど、持続的で著しい養育の欠落共働きなどで関わる時間を確保しづらい日常的な忙しさ
誰が判断するか小児科医・児童精神科医などの専門職特定の専門職による診断基準はない
この記事での位置づけ心配な症状が続く場合の相談先を案内一般的な関わり方の工夫を紹介

忙しくて赤ちゃんとゆっくり向き合う時間を十分に取れない日があったとしても、それだけで医学的な診断がつく状態になるわけではありません。まずはこの違いを知っておくことが、不要な不安を減らす第一歩になります。

赤ちゃんの発達には個人差があります。1つの様子だけで決めつけないことが大切です

指差しをしない、視線が合いにくいといった様子は、発達の個人差の範囲であることが多く、その1点だけで発達障害や愛着の問題と判断することはできません。国立障害者リハビリテーションセンター発達障害情報・支援センターの解説によると、対人関係やコミュニケーションの土台となる社会的行動には獲得の順序があり、個人差を伴いながら育っていくとされています。

同センターの資料では、1歳6か月頃までに現れやすい社会的行動の例として、名前を呼ばれて反応する、大人の動作をまねる、興味のあるものを指差しで伝える、新しい場面で親の顔を見て確認する、といった行動が挙げられています。ただし、これらはあくまで「多くの子どもで見られるようになる」目安であり、現れる時期には幅があるとされています。

時期の目安多くの子で見られやすい行動の例この記事での考え方
生後数か月〜あやすと笑う、声のする方を見る現れ方の速さや頻度には個人差があります
1歳前後名前を呼ばれて振り向く、大人の動作をまねる1つの行動が遅いだけで判断材料にはなりません
1歳6か月頃興味のあるものを指差しで伝える、親の顔を見て確認する乳幼児健診で発達を確認する目安の時期です
それ以降言葉を使ったやり取りが増えていく継続して気になる場合は健診や専門機関に相談してください

クレーン現象(自分の手ではなく、大人の手を使って物を取ろうとする仕草)のように、特定の行動だけを取り上げて自閉症のサインだと結びつける情報も広く出回っていますが、クレーン現象は自閉症のサイン?定型発達との違いと家庭でできる対応で詳しく解説しているとおり、1つの仕草だけで判断できるものではありません。発達の特性には遺伝的な要因や胎児期・周産期のさまざまな要因が関わっているとされており、自閉スペクトラム症と遺伝の関係NIPTで発達障害はわかるのかもあわせてご覧いただくと、後天的な関わりだけがすべてを決めるわけではないという全体像がつかみやすくなります。

忙しい毎日でも実践しやすい、赤ちゃんとの応答的な関わり方

特別な時間や道具がなくても、赤ちゃんの行動に応答する関わり方を日常の中で積み重ねることが、健やかな発達を支える一般的な工夫として知られています。この考え方は「サーブアンドリターン」とも呼ばれ、赤ちゃんが発する声や表情、指差しといった働きかけ(サーブ)に、大人が言葉や表情で応える(リターン)というやり取りを指します。

私自身、遺伝カウンセリングの外来で、乳児期のお子さんを育てる方から「共働きで一緒にいる時間が短く、関わりが足りていないのではないか」というご相談を受けることがあります。そのようなとき、まずお伝えしているのは、関わりの「長さ」よりも「応答性」を意識することです。

1. 短い時間でも、赤ちゃんに意識を向ける時間を作る

家事や仕事に追われていると、スマートフォンを見ながら、他の作業をしながらの「ながら育児」になりやすいものです。1日のうちわずかな時間でもよいので、テレビやスマートフォンから意識をそらし、赤ちゃんの表情や仕草に目を向ける時間を作ってみてください。目を合わせ、語りかけ、触れ合うことの積み重ねが、赤ちゃんにとっての安心感につながっていきます。

2. 赤ちゃんの行動を言葉にして返す

赤ちゃんが笑ったら「嬉しいね」、何かを指差したら「あれが気になったんだね」というように、行動を言葉にして返してみましょう。赤ちゃんはまだ言葉を話せなくても、自分の行動に大人が反応してくれるやり取りを通じて、コミュニケーションの土台を少しずつ育んでいきます。

3. 家族で育児の負担を分け合う

関わりの余裕は、親自身の心身の状態に左右されます。パートナーや家族と役割を分担し、1人にすべての負担が偏らない仕組みを作ることも、赤ちゃんとの関わりの質を保つうえで欠かせない工夫です。祖父母や自治体の子育て支援サービスを頼ることも、決して特別なことではありません。

4. 完璧な育児を目指さない

毎日100点の関わりを続けられる親はいません。ある日は十分に構えなくても、翌日、別の日に取り戻せば十分です。肩の力を抜いて赤ちゃんと向き合う時間の方が、親自身にとっても赤ちゃんにとっても、穏やかな時間になりやすいものです。

赤ちゃんと目を合わせて語りかける親

「関わりが足りていないのでは」と不安になったときに知っておきたいこと

共働きで赤ちゃんと過ごす時間が短いこと自体が、発達に問題を引き起こす原因だと単純に結びつけることはできません。現代の育児環境では、経済的な事情やキャリア形成の観点から、産後早い時期に職場復帰する方も少なくありません。その中で「十分な時間を取れていない」と悩む方は多く、こうした悩みを持つこと自体は、決して特別なことではありません。

もう1つお伝えしたいのは、乳児期の関わりがすべてを決めてしまうわけではないという点です。早期療育と脳科学から見る子どもの伸びしろで紹介しているとおり、子どもの発達を支える働きかけは乳児期だけに限られるものではなく、その後の時期にも積み重ねていくことができます。数日、あるいは一時的に十分な関わりを持てない日があったからといって、悲観的になりすぎる必要はありません。

取材や相談の場で出会う保護者の方の多くは、「関わりが足りているだろうか」と悩めるくらい、すでにお子さんのことを気にかけていらっしゃいます。自分を責める前に、日々の中でできる工夫を1つずつ積み重ねていく姿勢の方が、長い目で見て赤ちゃんにも家庭にもよい影響を与えます。

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心配な様子が続くときの相談先(乳幼児健診・地域の窓口)

気になる様子が一時的でなく続く場合は、自己判断で抱え込まず、乳幼児健診や地域の相談窓口を頼ってください。乳幼児健診は、保健師や小児科医など専門職が発達の様子を一緒に確認できる貴重な機会として位置づけられています。

相談先特徴
1歳6か月・3歳児健診など乳幼児健診保健師・小児科医など専門職が発達の様子を確認できる機会
市区町村の保健センター・子育て世代包括支援センター健診の前後を問わず、日常的に無料で相談できる窓口
発達障害者支援センター発達に関する専門的な相談・情報提供を行う機関
かかりつけの小児科日頃の様子を知る立場から相談にのってもらえる窓口

こども家庭庁は乳幼児健診の取り組みについて情報を公開しており、乳幼児健診に関する取組み(こども家庭庁)で全国的な位置づけを確認できます。発達の気づきや健診での確認ポイントについては健診での気づき(国立障害者リハビリテーションセンター発達障害情報・支援センター)、相談窓口の探し方は成長・発達で気になることを相談したいとき(独立行政法人福祉医療機構 すくすくサポート・プロジェクト)、発達障害全般の情報は発達障害ナビポータルで公的な情報を確認できます。1人で抱え込まず、こうした窓口を早めに頼ることが、赤ちゃんと家族双方にとって安心につながります。

よくある質問(FAQ)

Q. 「疑似発達障害」は医学的な診断名ですか?

正式な診断名ではありません。育児メディアなどで使われてきた俗称であり、DSMやICDといった医学の診断基準には掲載されていません。近い医学的概念として「反応性アタッチメント症」がありますが、これは虐待やネグレクトなど著しい養育の欠落を背景に、医師が診断するものです。

Q. 「サイレントベビー」という言葉も医学用語ではないのですか?

はい、こちらも学術的に確立した診断名ではなく、育児情報の中で使われてきた俗称です。泣くことが少ない、おとなしいといった様子だけで、特定の状態と決めつけることはできません。

Q. 赤ちゃんが指差しをしない・視線が合いにくい場合、発達障害の可能性がありますか?

1つの様子だけで判断することはできません。発達の現れ方には個人差があり、1歳6か月頃までに多くの子で見られるとされる行動も、現れる時期には幅があります。継続して気になる場合は、自己判断せず乳幼児健診や専門機関に相談してください。

Q. 共働きで一緒にいる時間が短いと、赤ちゃんの発達に悪い影響がありますか?

時間の長さそのものよりも、関わる時間の中でどれだけ応答的にやり取りできているかが大切だとされています。短い時間であっても、赤ちゃんの行動に言葉や表情で応える関わりを積み重ねることができれば、過度に心配する必要はありません。

Q. サーブアンドリターン(応答的な関わり)とは何ですか?

赤ちゃんが発する声や表情、指差しなどの働きかけに、大人が言葉や表情で応えるやり取りのことです。特別な道具や長い時間は必要なく、日常のちょっとした瞬間に取り入れられる関わり方として紹介されています。

Q. 発達が心配なときは、どこに相談すればいいですか?

1歳6か月・3歳児健診などの乳幼児健診のほか、市区町村の保健センターや子育て世代包括支援センター、発達障害者支援センター、かかりつけの小児科に相談できます。健診の時期を待たずに、気になった時点で相談して問題ありません。

まとめ:不安を煽られる言葉より、日々の応答的な関わりを大切に

「疑似発達障害」や「サイレントベビー」という言葉は、正式な医学の診断名ではありません。今回の内容を3つのポイントに整理します。

  1. 「疑似発達障害」は俗称であり、医学的な診断は虐待やネグレクトなど著しい養育の欠落を背景にした「反応性アタッチメント症」とは別物 忙しさから関わる時間が短いことと、医学的な診断がつく状態を同一視する必要はありません。
  2. 発達の現れ方には個人差があり、1つの様子だけで判断できない 指差しや視線が合うタイミングには幅があり、乳幼児健診はそれを専門職と一緒に確認できる機会です。
  3. 長い時間より、応答的な関わり(サーブアンドリターン)の積み重ねが大切 短い時間でも赤ちゃんの行動に言葉や表情で応えること、家族で負担を分け合うこと、完璧を目指さないことが実践しやすい工夫です。

関わりに自信が持てないときほど、自分を責めるのではなく、乳幼児健診や地域の相談窓口といった公的な支援を頼ってください。温かい関わりの積み重ねと、必要なときに専門機関を頼る安心感が、赤ちゃんの健やかな育ちを支える土台になります。

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医師監修 監修日:2026年5月29日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。