出生前検査で得られる遺伝子情報は、一生変わることのない「要配慮個人情報」として、個人情報保護法や関連ガイドラインで通常の医療情報より厳格に保護されています。検査を受けるかどうかを考えるとき、「この情報は誰が見て、どこまで守られるのか」という不安を口にする方は少なくありません。本記事では、出生前検査で扱う遺伝子情報の法的な位置づけから、個人情報保護法・次世代医療基盤法といった関連制度、米国のGINA(遺伝情報差別禁止法)に相当する日本の取り組み、検査機関を選ぶ際に確認したいポイントまで、公的機関や学会の情報にもとづいて整理します。
この記事でわかること
出生前検査で得られる遺伝子情報は、パスワードのように後から変更できず、血縁者にも関わる特殊な個人情報です。そのため個人情報保護法上も、氏名や住所とは異なる慎重な取り扱いが求められています。
個人情報保護委員会は、疾患へのかかりやすさや治療薬の選択に関わる医学的な意味を持つ「ゲノム情報」について、要配慮個人情報に該当し得ると整理しています。取得や第三者提供には、通常より厳しい条件がかかる情報だと理解しておきましょう。
出生前検査の遺伝子情報は、本人だけでなく血縁者の体質にも関わる「一生変わらない個人情報」という点で、一般的な医療データと性質が異なります。
クレジットカード番号やパスワードは、漏れても再発行や変更が可能です。しかし遺伝子情報はその人固有の設計図であり、生涯にわたって書き換えることができない一生モノの個人情報です。
さらに遺伝子情報は、血縁関係にある家族とも一部を共有しています。本人が検査を受けて得た情報が、将来的に子どもや兄弟姉妹の体質を推測する手がかりになることもある点も、他の個人情報にはない特徴でしょう。
個人情報保護法では、DNAを構成する塩基配列そのものを記録した「ゲノムデータ」と、そこに医学的な解釈を加えた「ゲノム情報」を区別して扱います。個人情報保護委員会が公表しているFAQによると、全ゲノムシークエンスデータなど本人を特定できる水準のゲノムデータは「個人識別符号」に位置づけられ、単一遺伝子疾患や治療薬の選択に関わる「ゲノム情報」は要配慮個人情報に該当し得るとされています(個人情報保護委員会「よくある質問」より)。
| 区分 | 内容 | 個人情報保護法上の扱い |
|---|---|---|
| ゲノムデータ | DNAの塩基配列そのもの(全ゲノムシークエンス等) | 個人識別符号に該当 |
| ゲノム情報 | 疾患へのかかりやすさ・治療薬選択など医学的解釈を伴う情報 | 要配慮個人情報に該当し得る |
| 一般的な医療情報(診療録等) | 病名・治療経過など | 要配慮個人情報 |
この区分を知っておくと、検査結果の説明を受ける際に、今渡されている情報がどちらに当たるのかを意識しやすくなります。
遺伝子情報の取得や利用には、個人情報保護法の改正や専用のガイドラインを通じて、通常の個人情報より厳しいルールが課されています。
2017年に全面施行された改正個人情報保護法により、病歴とあわせてゲノム情報の一部が要配慮個人情報の枠組みに位置づけられました。要配慮個人情報は取得の際に原則として本人の同意が必要で、第三者への提供にもより慎重な手続きが求められます。
個人情報保護委員会が公表している経済産業分野のガイドラインでは、遺伝子検査などを行う「個人遺伝情報取扱事業者」に対し、ゲノムデータや試料を取得する前に利用目的を文書または電磁的な方法で明らかにしたうえで、本人の同意を得るインフォームド・コンセントの実施を求めています(個人情報保護委員会「経済産業分野のうち個人遺伝情報を用いた事業分野における個人情報保護ガイドライン」)。
検査を申し込む前に、この検査機関は同意取得の手続きをきちんと踏んでいるかを確認する視点は、患者側の自己防衛としても役立つはずです。
検査結果を保管するデータベースへのアクセス権限を限定し、研究利用の際には匿名化・仮名化を行うことが、遺伝子情報保護の基本的な技術的対策です。
遺伝カウンセリングの現場でお話をうかがっていると、「自分の検査結果を誰が見られるのか」という質問を受けることがあります。適切に運用されている検査機関では、担当者ごとにアクセス権限を分け、誰がいつどのデータを閲覧したかを記録する仕組みを備えているのが一般的です。
こうした記録があれば、不必要な閲覧や意図しない持ち出しを事後的にも追跡できます。アクセス管理の有無は、検査機関のプライバシー保護体制を見極める材料の一つでしょう。
検査で得られたデータを研究や医療の発展に役立てる際には、個人を特定できないよう加工したうえで扱う仕組みが用意されています。2018年に施行された次世代医療基盤法(正式名称:医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報及び仮名加工医療情報に関する法律)は、認定を受けた事業者が医療情報を匿名加工・仮名加工したうえで研究に活用する枠組みを定めた法律です。
本人が特定できない形に加工されたデータであれば、研究への提供に関する同意の考え方も、個別の医療情報を第三者に渡す場合とは異なります。この違いを理解しておくと、同意書に「研究利用」の項目が出てきたときに、何を意味するのか判断しやすくなるでしょう。
米国では2008年に成立したGINA(遺伝情報差別禁止法)が雇用・保険分野での遺伝子差別を禁じており、日本でも2023年成立の法律で同様の理念が明文化されました。
GINAは、雇用主が採用や配置転換の判断に遺伝子検査の結果を用いることや、保険会社が保険料の算定に遺伝子情報を利用することを禁じる米国の法律です。2008年5月に成立し、保険分野の規定は2009年5月、雇用分野の規定は同年11月に施行されました(神戸大学「米国遺伝子情報差別禁止法(GINA)」)。
将来なりやすい病気が分かってしまう出生前検査や遺伝子検査では、こうした差別への懸念が受検をためらう理由になることがあります。GINAは、この懸念に法律で応えた代表例といえるでしょう。
日本には長らくGINAに相当する包括的な法律がありませんでした。2023年6月の国会で「良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律」、通称ゲノム医療推進法が成立し、基本理念の一つに「ゲノム情報による不当な差別の防止」が明記されています。
これを受けて厚生労働省は2024年8月20日、労働分野におけるゲノム情報の取り扱いに関するQ&Aを公表しました。採用選考時に遺伝情報の提出を求めることや、ゲノム情報を理由とした解雇・配置転換・昇給での不利益な取り扱いが問題になり得るという考え方を、具体的な問答形式で示しています(厚生労働省「ゲノム情報による不当な差別等への対応の確保(労働分野における対応)に関するQ&A」)。
| 項目 | 米国GINA(2008年) | 日本 ゲノム医療推進法(2023年)+厚労省Q&A(2024年) |
|---|---|---|
| 対象分野 | 雇用・医療保険 | 雇用分野を中心にQ&Aで具体化 |
| 禁止される行為 | 採用・保険加入時の遺伝情報の利用・要求 | 採用・解雇・配置転換等での不当な差別 |
| 生命保険への適用 | 対象外(別途州法等で対応) | 明文の適用除外規定は今後の課題 |
制度としてはまだ発展途上の面もありますが、遺伝情報による不当な差別を防止するという国の姿勢が法律に明記された意味は小さくありません。
出生前検査を提供する検査機関を選ぶ際は、精度や価格だけでなく、遺伝子情報の管理体制と遺伝カウンセリング体制も比較の対象になります。
2021年、国の専門委員会の報告書を受けて、日本医学会のもとに「出生前検査認証制度等運営委員会」が設置されました。この委員会は、NIPTを実施する施設の認証や、妊婦とパートナーへの情報提供・遺伝カウンセリング体制の整備を担っています(出生前検査認証制度等運営委員会)。
認証施設では、専門医や認定遺伝カウンセラーが関わる体制のもとで検査が行われ、検査結果や遺伝子情報の取り扱いについても一定の基準に沿った運用が求められます。
認証施設と非認証施設では、遺伝カウンセリングの実施体制や検査対象疾患の範囲、確定検査へのつなぎ方などに違いがあります。この違いは認証施設との違いに関するページで詳しく整理していますので、あわせてご確認ください。認証・非認証それぞれのメリットとデメリットは認証施設と非認証施設のメリット・デメリットを解説したページでも紹介しています。
なお、NIPTはあくまで非確定的な検査です。陽性が出た場合の確定診断には、羊水検査など別の検査が必要になる点も、情報の取り扱いを考えるうえで押さえておきたい前提でしょう。
検査機関を選ぶ際、遺伝子情報の管理体制について確認しておきたいポイントは次のとおりです。最初に見るべきは、情報管理体制の透明性でしょう。
質問しても曖昧な回答しか返ってこない検査機関は、情報管理の面でも慎重になったほうがよいでしょう。プライバシーマークの制度そのものについてはプライバシーマークの解説ページもご参照ください。
同意書の内容を理解し、疑問点を遺伝カウンセリングで解消しておくことが、遺伝子情報を自分自身で守る具体的な一歩になります。
出生前検査の同意書には、遺伝子情報の取り扱いに関わる項目がいくつも含まれています。署名の前に、次の点を確認しておきましょう。
当院にも、同意書のどの部分が研究利用に関する項目なのか分かりにくいというご相談をいただくことがあります。分からない点はその場で質問し、納得できるまで説明を受けてください。同意書の控えは必ず受け取り、手元に保管しておきましょう。
遺伝カウンセリングは、検査結果の医学的な意味を聞く場であると同時に、遺伝子情報の取り扱いについて専門家に相談できる機会でもあります。日本人類遺伝学会も、遺伝学的検査に関するガイドラインの中で検査前後の遺伝カウンセリングの重要性に触れています(日本人類遺伝学会「遺伝学的検査に関するガイドライン」)。カウンセリングの具体的な流れはNIPTと遺伝カウンセリングについて解説したページでも紹介しています。
検査結果が家族にどう影響するか、将来の保険加入や就労時にどう考えればよいか。遺伝カウンセリングの場で率直に質問してみてください。
出生前検査の遺伝子情報とプライバシー保護について、当院によく寄せられる質問をまとめました。
保管期間は検査機関ごとに定められており、同意書に明記されています。検査を申し込む前に、保管期間と廃棄方法を確認しておきましょう。
遺伝子情報の一部は血縁者と共有されているため、本人の検査結果が家族の体質を推測する手がかりになることがあります。遺伝カウンセリングでは、この点も含めて説明を受けられます。
米国のGINAのような包括的な法律はまだありませんが、2023年成立のゲノム医療推進法は「ゲノム情報による不当な差別の防止」を基本理念に掲げています。生命保険分野での具体的な扱いは、今後の制度整備が注目されている段階です。
次世代医療基盤法に基づく匿名加工医療情報は、個人を特定できないよう加工したうえで扱われる仕組みです。どのようなデータが対象になるかは同意書で確認できるため、内容に目を通しておいてください。
認証施設は出生前検査認証制度等運営委員会の基準に沿って運用されており、遺伝カウンセリング体制も含めて一定の水準が求められています。非認証施設を選ぶ場合は、情報管理の体制を個別に確認することが欠かせません。
検査を受ける医療機関の遺伝カウンセラーや担当医に、その場で質問してください。分からないまま署名せず、納得できるまで説明を求めることが大切です。
出生前検査の遺伝子情報保護について、押さえておきたいポイントは次のとおりです。
出生前検査は、赤ちゃんの健康について知るための選択肢であると同時に、自分自身の遺伝子情報と向き合う機会でもあります。NIPTを取り巻く倫理面の課題はNIPTをめぐる問題を整理したページでも取り上げていますので、あわせてご覧ください。制度は今も発展の途上にありますが、検査機関選びと同意プロセスを丁寧に確認することは、今の制度の中でも患者自身にできる備えです。
コラムを最後までお読みいただいた皆様に、特別な無料プレゼントをご用意しております!
以上の豪華4大特典を、公式LINEの「お友達登録」をしていただいた方全員に、完全無料でプレゼントいたします。さらにLINEでは、妊娠や出産に関する無料相談から、日頃のちょっとした夫への愚痴まで、なんでも幅広く受け付けております。
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
Copyright (c) NIPT Hiro Clinic All Rights Reserved.