不妊症の原因は、排卵や卵管など体の状態によるものが中心で、染色体や遺伝子の変化が関わるのはその一部にとどまります。ただし、無精子症や重い乏精子症、繰り返す流産といった特定のケースでは、染色体検査や遺伝子検査が原因の特定や治療方針の判断に役立つことがあります。本記事では、国立社会保障・人口問題研究所や日本生殖医学会、日本人類遺伝学会の公的・学術情報にもとづき、不妊症に関わる遺伝的な要因と検査、遺伝カウンセリングの考え方を中立に整理します。
この記事でわかること
不妊症の原因は排卵・卵管・子宮頸管・男性因子など体の状態に関わるものが中心で、染色体や遺伝子の変化はその一部です。
日本産婦人科医会によると、不妊の原因は排卵因子が10〜15%、卵管因子が30〜40%、子宮頸管因子が10%、男性因子が40〜50%、原因不明が10〜25%とされています。複数の要因が重なるケースもあるため、割合の合計は100%を超えます。
出典:日本産婦人科医会「不妊カップルに対する治療のアルゴリズム」
男性因子が女性側の因子と並んで大きな割合を占めている点は、押さえておきたいポイントです。不妊は「どちらか一方の責任」ではなく、夫婦それぞれの体の状態を確認していく共同作業といえます。原因全体の詳しい内訳は不妊の原因とはでも解説しています。
国立社会保障・人口問題研究所の第16回出生動向基本調査では、不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦は22.7%、およそ4.4組に1組にのぼると報告されています。不妊は特別な出来事ではなく、身近な悩みのひとつです。
出典:国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査」概要
これらの原因のうち、染色体の数や形の変化(染色体異常)や、特定の遺伝子の変化が背景にあるケースは一部にとどまります。次の章から、男女それぞれで報告されている代表的な染色体・遺伝子の変化を見ていきます。

男性不妊の中でも無精子症や重い乏精子症の一部には、染色体の数的異常・構造異常や、特定の遺伝子の変化が関わっていることがあります。
日本生殖医学会は、染色体の数異常や構造異常に起因する高度乏精子症・無精子症では、通常の方法での妊娠成立が難しいとの見解を示しています。一方で、顕微授精(ICSI)などの生殖補助医療によって、わずかに存在する精子から妊娠に至る報告が増えてきました。
出典:日本生殖医学会「染色体の数異常や構造異常による男性不妊の精子の臨床応用について」
代表的な染色体異常が、性染色体が1本多い47,XXYという構成をとるクラインフェルター症候群です。多くは偶発的に生じる染色体の数的異常で、無精子症の原因のひとつとして知られています。
もうひとつの代表例がY染色体微小欠失(AZF欠失)です。Y染色体長腕上のAZF領域という部分がわずかに欠けている状態で、重い造精機能障害の方に高い頻度でみられることが、日本生殖医学会の見解でも示されています。欠失した領域によって、顕微授精での精子採取率が変わってくることも分かっています。
出典:日本生殖医学会「Y染色体微小欠失を有する不妊患者に対する顕微授精について」
先天的に精管が欠損している「先天性両側精管欠損症」も、単一遺伝子の変化が関わる代表例です。背景にはCFTR遺伝子の変化があることが知られており、両親双方から変化した遺伝子を受け継ぐと症状が現れる常染色体潜性遺伝という形式をとります。父親側にこの変化が見つかった場合は、母親が同じ遺伝子を保因していないかを確認し、生まれてくる子どもへの影響を調べることが大切です。
これらの染色体・遺伝子の変化は、精液検査で異常が見つかった場合に追加で調べることが多く、すべての男性が一律に受ける検査ではありません。妊活における男性側の取り組み全般は妊活で男性がやるべきことでも紹介しています。
女性不妊でも、早発卵巣不全や習慣流産の背景に、染色体・遺伝子の変化が関わっていることがあります。
卵巣機能が年齢の割に早く低下する「早発卵巣不全(POI)」の一部には、X染色体にあるFMR1遺伝子の変化(プレミューテーション)が関わっているケースが報告されています。すべての早発卵巣不全に遺伝子の変化があるわけではありませんが、家族に同様の症状の方がいる場合は、検査を検討する材料のひとつになります。
性染色体が1本しかない45,Xという構成をとるターナー症候群も、女性不妊に関わる染色体異常として知られています。低身長など体の特徴を伴うことがある一方、症状の出方には個人差があります。
また、夫婦のどちらかが「均衡型転座」という染色体の構造異常を保因している場合、本人の健康には影響がなくても、卵子や精子ができる過程で染色体の組み合わせが不均衡になりやすく、流産を繰り返す一因になることがあります。
ただし、染色体検査は原因不明の不妊すべてに一律に行うスクリーニング検査としては位置づけられていません。日本産婦人科医会の資料でも、染色体検査をスクリーニング検査として推奨しない考え方が示されています。無精子症など重い男性因子や、流産を繰り返す場合など、医師が必要と判断したケースで検討される検査だと理解してください。

染色体検査・遺伝子検査は、基本検査で原因がはっきりしない場合や、重い男性因子・習慣流産がある場合に、医師の判断で追加される検査です。代表的な検査を整理すると、次のとおりです。
| 検査名 | 主な対象 | わかること |
|---|---|---|
| 染色体核型検査(血液) | 重い男性因子・習慣流産のあるカップル | 染色体の数的異常・構造異常(均衡型転座など)の有無 |
| Y染色体微小欠失検査 | 無精子症・高度乏精子症の男性 | AZF領域(a・b・c)の欠失の有無と範囲 |
| CFTR遺伝子検査 | 先天性両側精管欠損症が疑われる男性 | CFTR遺伝子の変化の有無、母親側の保因状況の確認 |
| 精液検査 | 不妊を心配するすべての男性の基本検査 | 精子の数・運動率・形態 |
検査を受けるかどうかは、費用や心理的な負担も含めて、担当医とよく相談してから決めましょう。「異常が見つかったらどうしよう」と不安になる方も少なくありませんが、結果は治療方針を絞り込むための材料であり、必ずしも治療を諦める理由にはなりません。
染色体検査・遺伝子検査を受ける際は、結果の意味を正しく理解し、自分たちで選択できるよう支える「遺伝カウンセリング」が重要な役割を果たします。
日本人類遺伝学会のガイドラインでは、遺伝カウンセリングについて「カウンセラーの強い示唆もしくは指導のもとでなされることのないように配慮する」という非指示的な原則が示されています。検査を受けるかどうか、結果をどう受け止めるかを決めるのは、あくまで本人と家族です。
出典:日本人類遺伝学会「遺伝カウンセリング・出生前診断に関するガイドライン」
同ガイドラインでは、夫婦のいずれかが染色体異常を保因している場合や、以前に染色体異常のあるお子さんを出産した経験がある場合、高齢妊娠の場合、X連鎖遺伝病の保因者である場合、常染色体潜性遺伝・顕性遺伝の疾患を夫婦のいずれかまたは双方が保因している場合などが、遺伝カウンセリングの対象になりうる例として挙げられています。
遺伝カウンセリングの現場では、「検査で異常が見つかったら、自分たちのせいだと思ってしまう」という声を伺うことがあります。しかし、染色体や遺伝子の変化の多くは偶発的に生じるもので、誰かの責任を問うための検査ではありません。私自身も診療の中で、まずその点を丁寧にお伝えするよう心がけています。
検査そのものに関する疑問はもちろん、結果をどう次の治療や将来設計に生かすかも、遺伝カウンセリングで相談できます。ひとりで抱え込まず、専門家に話してみてください。
染色体・遺伝子検査の結果は、体外受精や顕微授精、着床前診断といった次の一手を考えるための材料になります。
Y染色体微小欠失やクラインフェルター症候群など、精子の数が極めて少ないケースでも、精巣内から精子を採取して顕微授精につなげられることがあります。一方で、次世代への遺伝子伝達の可能性を含め、事前に十分な説明を受けておくことが欠かせません。染色体異常と体外受精の関係は染色体異常と体外受精の関係性は?でも詳しく解説しています。
均衡型転座の保因が分かっている場合、体外受精で得られた受精卵の染色体を調べる着床前遺伝学的検査(PGT-A/PGT-SR/PGT-M)という選択肢も存在します。移植前に染色体の状態を確認できる一方、対象や実施条件には一定のルールがあるため、この選択肢を選ぶかどうかは検査の限界も踏まえて慎重に判断する必要があります。着床前診断の詳しい内容は着床前診断(受精卵診断)と出生前診断の違いで整理しています。
妊娠が成立したあとに、赤ちゃんの染色体の状態を調べたいという場合は、NIPT(新型出生前診断)という選択肢もあります。NIPTは母体の血液から13番・18番・21番染色体などの数的異常を調べる非確定的な検査で、陽性となった場合の確定検査は羊水検査です。着床前診断とNIPTは調べる時期も目的も異なるため、混同しないよう整理しておきましょう。
不妊症の原因の大部分は排卵・卵管・子宮頸管・男性因子といった体の状態にあり、染色体や遺伝子の変化が関わるのは一部です。無精子症や重い乏精子症、繰り返す流産といった特定のケースでは、染色体検査や遺伝子検査が原因の特定に役立ちます。
検査を受けるかどうかに正解はありません。結果をどう受け止め、次の一歩をどう選ぶかも、夫婦それぞれのペースで構いません。気になることがあれば、まず精液検査や基礎検査から始め、必要に応じて遺伝カウンセリングを頼ってください。
いいえ。不妊症の原因は排卵・卵管・子宮頸管・男性因子など体の状態に関わるものが中心で、染色体や遺伝子の変化が関わるのは一部です。無精子症など重い男性因子や習慣流産では、その関与が確認されることがあります。
いいえ。染色体検査は原因不明の不妊すべてに一律に行うスクリーニング検査としては推奨されていません。無精子症など重い男性因子や、流産を繰り返す場合など、医師が必要と判断したケースで検討されます。
顕微授精によって生まれた男児には、同じ遺伝子の変化が伝わる可能性があります。日本生殖医学会も、事前に十分な説明とインフォームドコンセントを得ることの大切さを示しています。
必ずしもわかりません。ターナー症候群のように体の特徴を伴うことがある一方、均衡型転座の保因者は健康に影響がなく、流産を繰り返して初めて気づくケースもあります。
検査でわかること・わからないことを整理し、結果の意味を理解したうえで本人が納得して選択できるよう支える場です。日本人類遺伝学会のガイドラインでも、非指示的な支援が原則とされています。
わかりません。NIPTは妊娠が成立したあとに赤ちゃんの染色体の数的異常を調べる検査で、不妊の原因となる染色体・遺伝子の変化を調べる検査ではありません。目的が異なる検査だと理解しておきましょう。
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
Copyright (c) NIPT Hiro Clinic All Rights Reserved.