男性の肥満は精子の質を低下させ、パートナーの流産リスクや受精卵の初期発育にまで影響することが、国内外の研究で明らかになってきました。「妊娠できるかどうかは女性の体次第」と考えている男性は今も少なくありません。しかし精子は、男性自身の生活習慣を映す鏡のような存在です。本記事では、男性の肥満と精子の質・妊活への影響について、日本泌尿器科学会・日本生殖医学会のガイドラインや2025年発表の胚培養データなど、公的・学術情報にもとづいて整理します。
この記事でわかること
肥満は男性ホルモンの環境を乱し、精子の数・運動率・DNAの状態にまで影響を及ぼすことが分かっています。女性の卵子は胎児期にすでに数が決まっており、年齢とともに質が変化していくことは広く知られています。一方で精子は、精巣の中で約74〜90日というサイクルで日々新しくつくられ続けています。
そのため「精子は常に新しいのだから、体型や年齢はあまり関係ない」と考える方もいます。ただし、この考え方には注意が必要です。日々つくられているということは、裏を返せば、その時々の体調や生活習慣の影響をそのまま受けて形成されているということでもあります。私自身、外来でパートナーの体型や生活習慣を気にかけて相談にいらっしゃるご夫婦にお会いすることがあります。
肥満によって体内に増える酸化ストレスが、精子の数や運動率、DNAの状態に影響すると報告されています。体脂肪が増えると、脂肪組織から炎症性の物質が分泌されやすくなり、体内の酸化ストレスが高まります。この酸化ストレスが精子細胞に影響し、精子濃度や運動率、正常形態率の低下につながるとされています。
さらに、酸化ストレスは精子頭部にあるDNAの損傷(断片化)にも関わるとされ、精子DNA損傷は体外受精の結果や反復流産との関連が指摘されています。加えて、DNAの配列自体は変わらなくても、遺伝子のスイッチに関わる「メチル化」と呼ばれる変化が生じやすくなることも報告されています。こうした変化は、精子形成に関わるホルモン環境の乱れ(性腺機能の低下や精巣内の温度上昇など)とあわせて生じると考えられています。
2025年に生殖医療の学術誌「Fertility and Sterility」で発表された研究では、男性のBMIが受精卵の初期発育速度と流産リスクに関係することが示されました。この研究は、2つの生殖医療施設で実施された1,398件の卵子提供による顕微授精(ICSI)周期、7,846個の胚を対象にした後ろ向きコホート研究です。
卵子提供を用いることで、卵子側の条件(提供者の年齢や卵子の質)をそろえたうえで男性側の影響だけを比較できる点が、この研究の特徴です。男性のBMIは標準体重(24.9未満)・過体重(25.0〜29.9)・肥満(30以上)の3群に分類されました。

結果として、肥満の男性の精子を用いた場合、受精卵が2〜5細胞期へ分割していく速度が標準体重の男性と比べて緩やかで、良好な内細胞塊を持つ胚盤胞に育つ割合も低い傾向(オッズ比0.80)が確認されました。流産率は標準体重の男性で9.5%であったのに対し、肥満の男性では13.5%(オッズ比1.67、95%信頼区間1.27〜2.19)と有意に高い結果でした。
| 項目 | 標準体重の男性(BMI25未満) | 肥満の男性(BMI30以上) |
|---|---|---|
| 流産率 | 9.5% | 13.5%(オッズ比1.67) |
| 生産率(出産に至った割合) | 46.7% | 36.5% |
| 良好な内細胞塊を持つ胚盤胞の割合 | 基準 | やや低い傾向(オッズ比0.80) |
ここで一点、正確にお伝えしておきたいことがあります。生産率(実際に出産に至った割合)についても標準体重群46.7%・過体重群43.7%・肥満群36.5%という傾向は見られたものの、この差は統計的に有意ではなかったと報告されています。流産率の差は統計的に裏付けられている一方、出産率の差については今後さらなる研究で確認していく段階だという点は、誤解のないよう明記しておきます。
日本泌尿器科学会が日本生殖医学会の後援を受けて作成した「男性不妊症診療ガイドライン2024年版」でも、肥満が男性ホルモンの環境や精液所見に影響しうる点が取り上げられています。このガイドラインは、2022年に不妊治療の保険適用が始まったことを受け、生殖医療専門医だけでなく一般の泌尿器科医にも標準的な診療の考え方を共有する目的で作成されました。
ガイドラインでは、肥満傾向がある場合の減量とその維持が、精液所見の改善につながる方法のひとつとして位置づけられています。急激な減量ではなく、無理のない範囲で継続できる生活習慣の見直しが基本方針です。体重の変化そのものよりも、続けられる形に整えることに意味があると考えられています。
精子が精巣内でつくられ、射精されるまでにはおよそ74〜90日かかるため、生活習慣の見直しの効果が現れるまでには数カ月単位の時間が必要です。「子どもがほしい」と考え始めたタイミングから、遅くとも3カ月前には対策を始めておくことが望ましいといえます。
具体的に取り組みやすい項目を、実践のポイントとあわせて整理しました。妊活中の体づくりと理想の体重や妊活中の食事・飲み物についても、あわせてご確認ください。
| 項目 | 実践のポイント | 目安 |
|---|---|---|
| 食事 | 野菜・魚など抗酸化作用が期待される食品を意識してとる | 妊活を意識したときから継続 |
| 運動 | ウォーキングや軽い筋力トレーニングを習慣にする | 週2〜3回程度 |
| 禁煙 | 喫煙は酸化ストレスを増やすため禁煙する | できるだけ早く |
| 飲酒 | 過度な飲酒は控え、適量を意識する | 日常的に見直す |
| 体温管理 | 精巣は体温より2〜3度低い環境で精子をつくるため、サウナや長時間の熱い湯船は頻度を控えめにする | 妊活中は特に意識 |
| 準備期間 | 精子が入れ替わるまでの目安 | 約74〜90日 |
診療の中では、生活習慣を見直したことで数カ月後の精液検査の数値が改善したという声をうかがうこともあります。個人差はあっても、続けることに意味のある取り組み。
父親の肥満が精子のDNAメチル化に影響し、それが子どもの将来の代謝機能に関わる可能性は研究段階で指摘されていますが、現時点で確立した結論ではありません。「DOHaD(Developmental Origins of Health and Disease)」という考え方では、胎児期や生殖細胞形成期の環境が、生まれてくる子どもの将来の健康状態に関わる可能性があるとされています。
これまで母体側の栄養状態を中心に研究が進められてきましたが、近年は精子形成における父親側の要因も研究対象になってきています。ただし、動物実験で示された知見がそのまま人間に当てはまるとは限らず、ヒトでの長期追跡データはまだ限られています。断定的に「子どもが将来必ず影響を受ける」と言えるものではなく、今後の研究の積み重ねが必要な分野だと理解しておくことが大切です。国立成育医療研究センターのプレコンセプションケアセンターでも、妊娠前からの男女双方の健康づくりが次世代の健康にもつながるという考え方を紹介しています。過度に心配するよりも、わかっている範囲で対策できることに目を向ける方が現実的です。
妊活は女性だけの課題ではなく、パートナー双方の生活習慣が関わる取り組みです。男性の体型や生活習慣について指摘すること自体が、家庭内の緊張につながってしまうケースも見られます。精神的なストレスもまた酸化ストレスを高める要因のひとつとされており、責める姿勢よりも一緒に取り組む姿勢のほうが結果的に続けやすいというのが実感です。休日に二人で体を動かしたり、栄養バランスを考えた食事を一緒に準備したりすることも、無理なく続けられる工夫のひとつです。
妊活全般で男性が取り組むべきことの総論は、妊活で男性がやるべきことでも整理しています。なかなか妊娠に至らない場合は、体型や生活習慣だけでなく、不妊の原因を幅広く確認しておくことも選択肢のひとつ。夫婦で一緒に受診し、必要に応じて専門医に相談する姿勢が、遠回りに見えて近道になることがあります。
出典:Male obesity impairs early embryonic development and increases miscarriage risk in oocyte donation cycles(Fertility and Sterility, 2025) / 日本泌尿器科学会・日本生殖医学会「男性不妊症診療ガイドライン2024年版」 / 日本産婦人科医会「男性のプレコンセプションケアについて」 / 国立成育医療研究センター プレコンセプションケアセンター / 日本産科婦人科学会「不妊症」
影響することが複数の研究で報告されています。2025年発表の胚培養データでは、肥満の男性の精子を用いた場合、流産率が標準体重の男性より高く(9.5%対13.5%)、受精卵の初期発育もやや緩やかであることが示されました。
一般にBMI25以上は「過体重」、30以上は「肥満」に分類されます。研究ではBMI30以上の群で流産率の上昇が確認されているため、BMI25を超えたあたりから体重管理を意識することが望ましいといえます。
精子は精巣内でつくられてから射精されるまでにおよそ74〜90日かかります。そのため、生活習慣を見直した効果が精子に現れるまでには、早くても3カ月程度の期間を見込んでおく必要があります。
精巣は体温より2〜3度低い環境で精子をつくるとされているため、サウナや長時間の熱い湯船は頻度や時間を控えめにすることが望ましいです。禁止というより「頻度を見直す」という感覚で取り入れてください。
父親の肥満が精子のDNAメチル化を通じて子どもの体質に関わる可能性は研究段階で指摘されていますが、ヒトでの長期データはまだ限られており、確立した結論ではありません。過度に不安を感じる必要はなく、今後の研究の進展を踏まえて理解を深めていく段階です。
なかなか妊娠に至らない場合、原因は女性側・男性側どちらにもありえます。日本産科婦人科学会も男女双方の検査を案内しており、精液検査は比較的負担の少ない検査のひとつです。夫婦そろって早めに専門医へ相談してください。
本記事の内容をまとめます。
妊活の主役は女性だけではありません。父親となる男性の生活習慣も、受精卵の育ちや妊娠の経過に関わりうる要素のひとつです。断定的な不安を抱く必要はありませんが、できることから夫婦で一緒に取り組んでいく姿勢が、後悔のない妊活につながります。
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
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