結論から先にお伝えします。日本の水道水や、通常量の歯磨き粉・歯科でのフッ素塗布を使う範囲。この範囲では、妊娠中の赤ちゃんのIQに悪影響が出るという科学的根拠は、現時点で確認されていません。
こんにちは。ヒロクリニックNIPT統括院長の岡博史です。「フッ素配合の歯磨き粉を妊娠中に使っても大丈夫でしょうか」。診察室でこうした質問を受ける機会が、ここ最近増えてきました。
海外の研究や報道をきっかけに、「フッ素が子どものIQを下げるらしい」という話がSNSでも広がっています。妊娠中は些細な情報にも敏感になるものです。
ただし、話題の研究の多くは日本よりフッ素濃度がはるかに高い地域が対象です。人為的にフッ素を添加した水道水のデータであることも珍しくありません。この記事では、研究の中身と日本の実情を切り分けます。公的機関・学会の見解とともに整理していきましょう。
この記事でわかること
フッ素とIQの関連が指摘されているのは、水道水フッ素濃度が高い一部地域の研究のみ。日本の通常の生活・歯科ケアは、その対象外です。
フッ素は、虫歯予防の効果が広く認められてきた成分です。歯磨き粉や歯科医院でのフッ素塗布として、長年使われてきました。
一方で近年、気になる研究報告も出ています。「妊娠中や乳幼児期の過剰なフッ素摂取が、子どものIQ低下と関連する可能性がある」というものです。報道やSNSでも話題になりました。
ここで押さえておきたい点があります。「関連の可能性が示唆された」ことと「日本の生活環境でも同じリスクがある」ことは、まったく別の話だという点です。
次の章から、根拠となった研究の中身と、日本との濃度差を具体的に見ていきましょう。
話題の中心にある研究は、水道水にフッ素を人為的に添加している地域のデータ。しかも、研究自体の手法に限界があると学会が指摘しています。
2019年、カナダで行われた大規模な母子コホート研究がJAMA Pediatrics誌に掲載されました。
この研究では、妊婦の尿中フッ素濃度と、生まれた子どものIQの関係を調べています。結果は次の通りです。尿中フッ素濃度が1mg/L高くなるごとに、男の子のIQは平均で約4.5ポイント低下。そうした関連が報告されました。
ただし、この研究の対象地域はカナダです。カナダは虫歯予防の公衆衛生政策として水道水にフッ素を添加しており、目標濃度は0.7mg/L前後。日本の水道水(0.1〜0.2mg/L程度)の3〜7倍ほどの水準です。
日本口腔衛生学会の見解は、この研究の手法上の限界を指摘しています。「尿中フッ素濃度を1回測定しただけでは、日常的な摂取量を正確に反映しない」という点です。「男児のみで関連が見られ、女児では見られない」ことも指摘されています。米国小児科学会など海外の主要な専門機関も、この研究を理由にフッ素応用の方針は変えていません。
2024年には、米国国立毒性プログラム(NTP)がレビューを公表しました。対象は、カナダ・中国・インド・イラン・パキスタン・メキシコなど複数国の研究です。
そこでの結論を要約します。「水道水フッ素濃度が1.5mg/Lを超える高濃度地域」が対象です。そうした地域では、子どものIQ低下との関連が中程度の確からしさで認められる、という内容です。
一方、米国の目標濃度である0.7mg/L程度ではどうでしょうか。「判断できるだけのデータが不足している」と明記されています。日本の水道水の濃度は、この0.7mg/Lよりもさらに低い水準です。
つまり、科学的な懸念が集中しているのは「高濃度地域」です。日本の生活環境がそのまま当てはまるわけではありません。
日本は水道水にフッ素を人為的に添加しておらず、自然由来の濃度も海外の添加地域よりかなり低いのが実情です。
アメリカやカナダの一部地域では、虫歯予防の公衆衛生政策として水道水にフッ素を添加しています(フロリデーション)。日本にも過去の実施例があります。京都市や三重県の一部地域で試験的に行われましたが、いずれも数十年前に終了しました。現在、日本では全国的なフッ素添加は行われていません。
数値で比べると、違いがはっきりします。
| 地域・基準 | フッ素濃度の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 日本の水道水(自然由来) | 0.1〜0.2mg/L程度 | 人為的な添加は行っていない |
| 日本の水質基準(上限) | 0.8mg/L以下 | この値を超えないよう管理 |
| WHOの飲料水ガイドライン上限 | 1.5mg/L | これを超えないことが目安 |
| 米国・カナダの水道水添加目標 | 0.7mg/L前後 | 虫歯予防目的で人為的に添加 |
| NTPレビューで関連が指摘された水準 | 1.5mg/L超 | 中程度の確からしさでIQとの関連を報告 |
この表からわかるのは、IQへの影響が議論されているのは日本の水道水濃度の7倍前後にあたる水準だということです。日本国内で暮らし、水道水を飲んでいるだけで同じリスクが生じるとは考えにくい状況と言えます。
妊娠中の脳発達という意味では、フッ素以外にも気をつけたい微量元素があります。ヨウ素不足も胎児の脳発達に関わるとされる栄養素です。妊娠中のヨウ素と脳の発達についての記事もあわせてご覧ください。
フッ素は歯磨き粉だけでなく、お茶や食品からも摂取しており、トータルの摂取量で考える視点が大切です。
市販の歯磨き粉の多くには、950〜1450ppm程度のフッ素が含まれています。大人がうがいをして吐き出す使い方であれば、体内に取り込まれる量はごくわずかです。
注意したいのは、うがいが上手にできない小さなお子さんのケース。甘い味のついた歯磨き粉を毎日飲み込んでしまうことがあります。この場合、体内への摂取量が増えやすくなります。
盲点になりやすいのがお茶です。茶葉は土壌のフッ素を吸収・蓄積しやすい性質があります。
特に古い葉を使うウーロン茶や濃い緑茶、紅茶には、比較的高い濃度のフッ素が含まれていることがあります。「カフェインレスだから」と濃いお茶を大量に飲み続けるのは避け、水や麦茶もバランスよく取り入れましょう。妊娠中の飲み物選びについては、妊娠中の水分補給と正しい飲み物の選び方でも詳しく解説しています。
骨ごと食べる小魚や缶詰、野菜など、自然界の食品にもフッ素は含まれます。これらをゼロにすることは現実的ではありませんし、通常の食事量であれば過度に心配する必要はありません。
大切なのは、特定の食品を極端に避けることではありません。歯磨き粉・お茶・食品を合わせた「トータルの摂取量」を意識する視点です。
厚生労働省・日本口腔衛生学会・日本小児歯科学会は、適切な濃度・使用量を守ったフッ化物応用を推奨。有効性と安全性を確認したうえでの見解です。
厚生労働省は「フッ化物洗口マニュアル」(2022年版)を公表しています。保育園・幼稚園・学校などでの集団フッ化物洗口について、有効性と安全性を確認したうえで実施を推奨する内容です。
日本口腔衛生学会も、繰り返し公式見解を示してきました。フッ化物洗口・歯面塗布に関する副作用の懸念について、国内外の医学・歯学専門機関の見解と照らし合わせる形です。
ここで整理しておきたいのが「有機フッ素」と「無機フッ素」の違いです。ニュースで問題視される「発がん性」「環境汚染」は、主にPFASなどの有機フッ素化合物に関するものです。歯磨き粉や歯科で使われるフッ化ナトリウムなどの無機フッ素とは、性質も規制の枠組みも異なります。
日本では歯磨き粉のフッ素濃度の上限を1500ppm以下と定めています。年齢に応じた濃度・使用量の目安も、学会から示されています。次の章で具体的に見ていきましょう。
不安なときは「一切避ける」極端な判断ではなく、年齢・状況に応じた適量を選ぶことが現実的な対応です。
通常量の歯磨き粉を使う分には、避ける必要はありません。フッ素補助剤(サプリメントや洗口液)を、あえて追加摂取する必要性は基本的にありません。迷ったら歯科医に相談してください。
つわりで歯磨きがつらい時期は、無理に歯磨き粉を使わなくても大丈夫です。水だけのブラッシングでも、汚れはある程度落とせます。妊娠中の歯のトラブルは、妊娠中の歯のトラブル予防と治療の注意点もあわせてご覧ください。私自身、診察の中で「つわりで歯磨きができず虫歯が心配」という相談をよく受けます。まずは無理のない範囲で続けることをお伝えしています。歯科受診については、妊娠中に歯医者へ受診して大丈夫かという記事も参考にしてください。
日本小児歯科学会・日本口腔衛生学会・日本歯科保存学会・日本老年歯科医学会の4学会。この4学会が、年齢に応じたフッ化物配合歯磨剤の使い方を提言としてまとめています。
| 年齢 | フッ素濃度 | 使用量の目安 |
|---|---|---|
| 歯が生えてから2歳 | 900〜1000ppmF | 米粒程度(1〜2mm) |
| 3〜5歳 | 900〜1000ppmF | グリーンピース程度(5mm) |
| 6歳〜成人・高齢者 | 1400〜1500ppmF | 歯ブラシ全体(1.5〜2cm) |
年齢が上がるほど、濃度と使用量を段階的に増やす設計です。「虫歯予防のメリットがリスクを上回る」バランスを取っています(4学会合同提言)。0〜2歳では、うがいができず飲み込みやすいもの。少量を守ることが特に重要になります。
歯科医院での高濃度フッ素塗布や、家庭用のフッ化物洗口液があります。これらは、もともと虫歯リスクが高い方への予防的な処置です。
「なんとなく良さそうだから」と自己判断で漫然と続けるのは避けましょう。かかりつけの歯科医師に「今の自分や子どもに必要か」を確認する一言。それだけで、納得して選べるようになります。
サプリメントや海外製の歯磨き粉は、日本よりフッ素濃度が高い場合があります。購入時はパッケージ裏面の表示を確認する習慣をつけましょう。
妊娠中のちょっとした不安、ひとりで抱え込んでいませんか。
フッ素と妊娠への影響について、診察室でよく聞かれる質問をまとめました。
日本の水道水には自然由来のフッ素が0.1〜0.2mg/L程度含まれますが、人為的な添加は行われていません。虫歯予防目的で添加する海外の地域とは前提が異なります。通常の飲用で過剰摂取につながる濃度ではありません。
2019年のカナダの研究や2024年のNTPレビューはあります。ただし、いずれも水道水フッ素濃度が日本よりかなり高い地域が中心です。日本口腔衛生学会は、尿中フッ素濃度の1回測定など手法上の限界も指摘しています。
通常量であれば避ける必要はありません。うがいで吐き出す使い方なら、体内に取り込まれる量はごくわずかです。つわりで歯磨きがつらい時は、量や回数を調整し、歯科医に相談してください。
極端に濃いウーロン茶や紅茶を、大量に飲み続けない限り心配はいりません。通常の摂取量で健康に影響が出るという公的な報告はありません。水や麦茶もバランスよく取り入れましょう。
4学会合同提言では、歯が生えてから2歳までの目安が示されています。900〜1000ppmFの歯磨き粉を、米粒程度使うことが推奨されています。うがいができない時期は、飲み込みへの注意が欠かせません。
厚生労働省のフッ化物洗口マニュアルでも有効性と安全性が確認されており、多くの学会が推奨しています。心配なときは、かかりつけの歯科医師・産婦人科医に相談すると安心です。
今日は、話題になっている「フッ素とIQ低下」について、研究の中身と日本の実情を分けてお伝えしました。最後に要点を振り返ります。
1. IQとの関連が指摘されているのは、高濃度地域の研究であること。日本の水道水は0.1〜0.2mg/L程度です。関連が報告された1.5mg/L超という水準とは、大きく異なります。
2. 日本は水道水にフッ素を人為的に添加していないこと。厚生労働省・学会も、適切な濃度・使用量でのフッ化物応用は有効性と安全性を確認しています。
3. 気をつけたいのは濃いお茶と歯磨き粉の飲み込みであること。年齢に応じた濃度・使用量を守れば、過度に心配する必要はありません。
4. 迷ったときは自己判断せず専門家へ相談すること。歯科医師・産婦人科医への相談が、結局いちばんの近道です。
「フッ素は絶対に避けるべき」と神経質になる必要はありません。研究の対象と日本の実情の違いを知るだけで、必要以上に怖がらずに済みます。
今日のお話が、日々の歯磨きや飲み物選びの参考になり、不安の解消につながれば嬉しいです。これからも、正確な医療情報をお届けしていきます。
妊娠・出生前検査について気になることがあれば、お気軽にご相談ください。
日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医/産婦人科(NIPT・出生前診断)
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日本産科婦人科学会 産婦人科専門医/産婦人科(NIPT・出生前診断)
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