胎児の奇形は予防できる?今日からできること

この記事でわかること

  • 胎児の奇形(先天性疾患・形態異常)のうち、予防できるものとできないものの違い
  • 葉酸摂取で神経管閉鎖障害のリスクを下げる正しいタイミングと量
  • 飲酒・喫煙・血糖管理など、生活習慣で防げるリスク
  • 風疹ワクチンなど、事前の備えで防げる感染症のリスク
  • 「防げないケース」もあるという事実と、自分を責めなくていい理由

胎児の奇形(先天性疾患・形態異常)には、母親の行動でリスクを下げられる部分があります。葉酸摂取や禁酒禁煙、血糖管理、風疹ワクチン接種などです。一方で、染色体の変化など、現在の医学では防ぎようのない部分もあります。「お腹の赤ちゃんに健康に生まれてきてほしい」という願いは、すべての妊婦さんに共通する気持ちです。

外来では「奇形は自分のせいで起きるのでは」と、思い詰める妊婦さんによく出会います。実際には、予防できる範囲とできない範囲がはっきり分かれています。本コラムでは公的機関や学会の情報をもとに、今日から実践できる予防策を整理します。あわせて、防ぎきれないケースについても正直にお伝えします。

胎児の奇形は「防げるもの」と「防げないもの」がある

先天性疾患の原因は、大きく3つに分かれます。環境要因によるもの、染色体や遺伝子の変化によるもの、原因が特定できない偶発的なものです。このうち母親の行動で予防効果が確認されているのは、環境要因が関わる一部に限られます。

染色体の変化は、卵子や精子が作られる過程で偶発的に生じることが大半です。詳しくは先天性疾患とはを参照してください。生活習慣とは直接関係しません。年齢を重ねるほど発生率が上がる傾向は報告されていますが、特定の行動が原因ではないのです。

つまり、これから紹介する予防策をすべて実践しても、発生をゼロにはできません。反対に、思い当たる行動があったとしても、それが「落ち度」とは限りません。この前提を踏まえて、行動で変えられる部分を見ていきましょう。

原因の分類具体例母親の行動での予防
環境要因葉酸不足、飲酒・喫煙、風疹感染、高血糖、薬剤・化学物質の曝露可能な範囲がある
染色体・遺伝子の変化染色体の数的異常、単一遺伝子疾患など予防は困難(偶発的に発生)
原因不明原因を特定できないケース予防策が確立していない
先天性疾患の主な原因分類の目安(文献により分類の幅があります)

妊娠前後に摂りたい「葉酸」で神経管閉鎖障害を防ぐ

葉酸の摂取は、根拠が最も確立している予防策のひとつです。神経管閉鎖障害のリスクを下げる効果があります。妊娠を計画した時点から始めることが、効果を得るうえでの分かれ目になります。

神経管ができる仕組みと葉酸の役割

妊娠初期、胎児の脳や脊髄のもとになる「神経管」が作られます。神経管は平らな状態から丸まって閉じていきます。この過程には葉酸が深く関わっています。

この時期に葉酸が不足すると、神経管がうまく閉じないことがあります。これが「神経管閉鎖障害」です。日本では、二分脊椎がその大部分を占めるとされています。詳しくは神経管閉鎖障害はいつわかる?葉酸との関係も解説で解説しています。

いつから、どれくらい飲むか

神経管が形成されるのは、妊娠4〜5週頃という早い時期です。妊娠検査薬で陽性がわかる頃には、この時期が終わりに近づいていることも珍しくありません。

そのため厚生労働省は、妊娠を計画している女性に摂取を推奨しています。通常の食事に加えて、1日0.4mg(400μg)の葉酸をサプリメント等から摂ることが目安です。妊娠前から妊娠12週頃までの継続摂取が推奨されています(出典:e-ヘルスネット「葉酸とサプリメント-神経管閉鎖障害のリスク低減に対する効果」)。

葉酸の代謝には個人差があります。通常量では不足しやすい体質の方がいることも指摘されています。摂取量に不安がある場合は、自己判断で量を増やす前に産婦人科医に相談してください。ほうれん草やブロッコリーにも葉酸は含まれますが、食事だけで必要量を満たすのは簡単ではありません。

妊娠を計画する女性が葉酸サプリメントを手にしているイメージイラスト

生活習慣の見直しで防げるリスク

飲酒・喫煙・血糖コントロールは、行動でリスクを減らせる代表例です。それぞれ根拠となるデータとあわせて整理します。

飲酒はやめる

妊娠中の飲酒は、量にかかわらず避けるべきとされています。「少しなら」「ノンアルコールなら」という考え方は禁物です。

母親が摂ったアルコールは、胎盤を通過します。胎児の肝臓は未熟で、分解する酵素をほとんど持っていません。継続的な飲酒によって「胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASD)」が起こることがあります。特徴的な顔つき、発育の遅れ、中枢神経系への影響を伴います。

日本では、度数1%未満の飲料は「ノンアルコール」と表示できます。微量でも避けたい時期には、こうした飲料の常用も控えるのが無難です。

喫煙・受動喫煙を避ける

喫煙する妊婦さんから生まれる子どもは、出生体重が平均約200g軽いとされます。低出生体重児となる頻度も、非喫煙者のおよそ2倍です。早産・自然流産の頻度は約1.5倍、周産期死亡は1.2〜1.4倍という報告もあります(出典:e-ヘルスネット「女性の喫煙・受動喫煙の状況と、妊娠出産などへの影響」)。

受動喫煙も、乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスク要因として確実視されています。パートナーの喫煙を含め、家庭内を禁煙にすることが望まれます。妊娠がわかってから急にやめるのが難しければ、禁煙外来も選択肢です。詳しくは妊娠中にやめたい危険な生活習慣でも解説しています。

血糖値・血圧のコントロール

妊娠前から糖尿病や高血圧がある方は注意が必要です。コントロールが不十分なまま妊娠すると、先天性疾患のリスクが高まることが知られています。高血糖の状態が続くと、心臓や神経管の形成に影響が及ぶ場合があります。

持病がある方は、妊娠前から主治医と相談してください。血糖値・血圧を安定させたうえで、妊娠計画を立てることが大切です。食事や体重管理のポイントは妊娠糖尿病にひっかからないためには?正しい食習慣を解説にまとめています。

ワクチンで防げる感染症「風疹」

風疹は、妊娠前のワクチン接種で感染そのものを防げる数少ない感染症です。妊娠がわかってからでは接種できません。備えは妊娠前に済ませておく必要があります。

妊娠初期(20週頃まで)に風疹に感染すると、胎児に感染することがあります。これが「先天性風疹症候群」です。難聴、先天性心疾患、白内障などの症状が報告されています。感染時期が早いほど重症化しやすい傾向があるとされています(出典:国立健康危機管理研究機構「先天性風疹症候群」)。

風疹ワクチンは生ワクチンです。妊娠中は接種できません。妊娠を考え始めたら、まずご自身とパートナーの抗体検査を受けてください。抗体が不足していれば、ワクチン接種を済ませておくのが確実な予防策です。すでに妊娠していて抗体が不十分な場合は、人混みを避けるなど感染予防を徹底してください。感染症全般は妊婦がかかると危険な感染症と予防策も参考にしてください。

摂取量に注意したい栄養と食品

体によいとされる栄養素でも、摂りすぎに注意が必要なものがあります。ビタミンAとメチル水銀の2点を押さえておきましょう。

ビタミンA(レチノール)の摂りすぎ

ビタミンAは皮膚や粘膜の健康維持に必要な栄養素です。ただし、動物性のビタミンA(レチノール)には注意が必要です。妊娠初期に長期間・大量に摂取すると、形態異常が増加する可能性が報告されています。耳、頭蓋、心臓などです(出典:食品安全委員会「ビタミンAの過剰摂取による影響」ファクトシート)。

レバー類やうなぎなど、レチノールを豊富に含む食品を毎日大量に食べ続けるのは避けてください。たまに口にする程度なら、過度な心配は不要です。注意したいのは、ビタミンA配合のサプリメントを日常的に摂取しているケースです。妊娠を考えている方、妊娠3か月以内の方は控えるのが賢明です。

なお、β-カロテン(植物性ビタミンA)は事情が異なります。ニンジンなどの緑黄色野菜に含まれ、体内で必要な分だけビタミンAに変換されます。過剰摂取による形態異常のリスクは報告されていません。

メチル水銀を含む大型魚

魚は良質なタンパク質やDHAの供給源です。ただし、種類によっては水銀が蓄積しやすいものがあります。食物連鎖の上位にいる大型魚ほど、体内の水銀濃度が高くなる傾向があるためです。

厚生労働省は、一部の魚介類について妊婦向けの摂食量の目安を示しています。キンメダイ、メカジキ、クロマグロ(本マグロ)、クジラ類などです。過剰なメチル水銀は胎盤を通過し、胎児の神経系の発達に影響する可能性があります(出典:厚生労働省「魚介類に含まれる水銀について」)。

日本人の平均的な摂取量は、健康に影響するレベルではないとされています。対象魚種を極端に避ける必要はありません。サケやアジ、サバ、イワシなど、幅広い魚を選ぶと安心です。

環境要因にも配慮を

職場や生活環境にある化学物質への曝露も、避けたいリスクのひとつです。心当たりのある方は、早めに主治医や職場に相談してください。

X線を扱う業務、有機溶剤を使う工場作業は要注意です。住居のリフォームで使われるホルムアルデヒドなどの化学物質も同様です。濃度や曝露量によって、胎児への影響が懸念されます。該当する環境で働いている方は、産業医や主治医に相談してください。業務内容の調整や、換気の徹底といった対策を取りましょう。

日常生活の範囲であれば、神経質になりすぎる必要はありません。気になる場合は、素材や換気の状況を確認したうえで、無理のない範囲で対策を進めてください。

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それでも防げない先天性疾患もある

ここまでの予防策をすべて実践しても、発生を完全にゼロにはできません。この事実は、正しく理解しておく価値があります。

染色体の数的変化や構造的変化の多くは、偶発的に生じます。卵子や精子が作られる過程、あるいは受精後の細胞分裂の過程でです。母親・父親どちらの生活習慣が原因というわけではありません。現時点の医学では、発生そのものを予防する方法が確立していないのです。年齢が上がるほど起こりやすくなる傾向は報告されていますが、これも行動で避けられるものではありません。

実際に診察の場でも、「何か悪いことをしてしまったのでは」と自分を責めてしまう方に数多くお会いします。しかし、偶発的に起こる変化まで防ぐ手立ては、現時点では存在しません。

気になる場合は、妊婦健診の超音波検査や出生前診断(NIPTなど)も選択肢のひとつです。赤ちゃんの状態を確認しながら、必要なサポートを早めに考えられます。ただしNIPTは、染色体の変化に関する非確定的な検査です。確定には羊水検査が必要です。形態的な異常そのものを直接診断するものではない点も押さえておいてください。

今日からできることチェックリスト

予防できる項目は、時期によってやるべきことが変わります。妊娠前・妊娠初期・妊娠中期以降で整理しました。

時期取り組みたいこと
妊娠を計画し始めたら葉酸サプリの開始、風疹抗体検査とワクチン接種、禁煙・禁酒の開始、持病の血糖・血圧コントロール
妊娠初期(〜13週頃)葉酸摂取の継続、飲酒・喫煙の完全な回避、ビタミンAサプリの見合わせ、大型魚の摂取頻度の調整
妊娠中期以降禁煙・禁酒の継続、血糖・血圧の定期チェック、妊婦健診での経過観察
妊娠時期別の予防アクションの目安

一気にすべてを完璧にこなす必要はありません。まずは葉酸サプリの開始と、禁煙・禁酒から始めてください。次に、風疹抗体検査の予約を入れる、という順番で構いません。

よくある質問

先天性疾患の予防について、外来でよく寄せられる質問をまとめました。

葉酸はいつまで飲み続ければいいですか?

神経管が形成される、妊娠12週頃までは継続を推奨します。それ以降も、母体の造血や胎児の発育に関わる栄養素です。多くの産婦人科で、妊娠期間を通じた摂取が案内されています。

妊娠中期に入れば、お酒を少しだけなら飲んでも平気ですか?

安全とされる摂取量は確立していません。時期にかかわらず、妊娠中は完全に控えるのが基本です。

風疹の抗体があるかどうかは、どこで調べられますか?

お住まいの自治体や産婦人科で、抗体検査を受けられます。自治体によっては、妊娠を希望する方向けの無料クーポンもあります。窓口に確認してください。

ビタミンAはサプリメントで摂ってはいけませんか?

妊娠を考えている方、妊娠3か月以内の方は控えてください。ビタミンA配合のサプリメントの、日常的な摂取が対象です。必要な場合は自己判断せず、産婦人科医に相談してから決めてください。

先天性疾患は、対策をすれば必ず防げますか?

すべてを防げるわけではありません。環境要因が関わる一部は予防できます。ただし、染色体や遺伝子の変化による偶発的なケースは、現在の医学では予防が困難です。対策をしても生じる場合、それは母親の落ち度ではありません。

妊娠糖尿病があると、赤ちゃんの奇形リスクは必ず上がりますか?

血糖値が高い状態が続くと、リスクが上がる傾向が指摘されています。ただし、妊娠前から適切にコントロールすることでリスクを下げられます。主治医と相談しながら、数値を管理していくことが基本です。

まとめ:できることを淡々と、できないことは抱え込まない

本コラムでは、胎児の奇形(先天性疾患・形態異常)について整理しました。母親の行動で予防できる範囲と、偶発的に起こり予防が難しい範囲です。葉酸摂取、禁酒・禁煙、血糖コントロール、風疹ワクチン接種は、いずれも根拠のある予防策です。

一方で、染色体の変化などによる偶発的なケースは、現時点の医学では防ぎきれません。「あれもこれも気をつけたのに」と自分を追い詰める必要はありません。原因のすべてが、母親の行動にあるわけでもないのです。

大切なのは、できる対策を淡々と積み重ねることです。できない部分については、医療者に相談しながら向き合いましょう。不安が強い場合は、一人で抱え込まないでください。かかりつけの産婦人科や、このコラムで紹介した相談先を頼りましょう。

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医師監修 監修日:2026年6月9日
岡 博史 (医師・医学博士/ヒロクリニック統括院長)

日本皮膚科学会 皮膚科専門医/日本医師会 産業医/東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。